「分身型ロボット」というユニークなロボットを開発し、注目を浴びるオリィ研究所の吉藤健太朗代表。だが、もともとは人とのコミュニケーションが苦手で、3年半のひきこもり生活をするなど「変わり者」として見られていた。だが、その変わり者であったことが、ゼロからイチを生み出す原動力になったという。吉藤氏に起業の経緯とゼロイチ人材に必要なことを聞いた。

オリィ研究所代表。1987年、奈良県生まれ。小学校5年から中学校2年まで不登校を経験、工業高校にて電動車いすの新機構の開発を行い、国内の科学技術フェアJSECにて文部科学大臣賞、ならびに世界最大の科学大会Intel ISEFにてGrand Award 3rdを受賞。その際に寄せられた多くの相談と自身の療養体験がきっかけとなり「人間の孤独を解消する」ことを人生のミッションとする。早稲田大学にて2009年から孤独解消を目的とした分身ロボットの研究開発に専念。2012年、オリィ研究所を設立。青年版国民栄誉賞「人間力大賞」を受賞するなど注目を集めている。(写真:菊池くらげ、以下同)
持ち主の動きや言葉を再現する分身型ロボット「OriHime(オリヒメ)」が話題を呼んでいます。どんなロボットなのでしょうか。
吉藤健太朗氏:オリヒメにはカメラ・マイク・スピーカーが搭載されており、スマートフォンやパソコンなどを介して操作することで会話をしたり、その場の様子を観察したりすることができます。つまり操作する人は家にいながらにしてあたかもその場にいるようにコミュニケーションができる。一方、オリヒメが置かれた場所にいる人も操作している人の存在を感じることができます。
今、オリヒメは難病などで寝たきりになっている人や育児や介護で職場に行けない人、全身の筋肉が衰えていく難病ALS(筋萎縮性側策硬化症)の患者さんにも使われるようになっています。ALSの患者さんは目だけでオリヒメを動かし、それまでは難しかった多様なコミュニケーションが可能になりました。オリヒメを使うことで、「行きたいのに行けない」「会いたいのに会えない」状態がなくなり、孤独の解消につながると思っています。
学校に行かなかったから“我慢弱い“
面白いですね。吉藤さんがこれまでなかったものを生み出せた、つまり「ゼロからイチ」を成し遂げられたのはなぜだと思いますか。
吉藤氏:自分はゼロから0.1を生み出して、後はみんなに助けてもらったという感じですが。基本的に自分が「やりたい」と思うことしか、やりたくないんです。このロボットも、「人々の孤独を解消したい」ということを目的に、それを突き詰めた結果できあがりました。
実は私はとっても“我慢弱い”んです。だから、我慢してやりたくないことをすることがとても苦手で。これは学校にまともに行っていないことが関係していると思います。学校に行くと、集団生活の中で価値観が統一され、いつの間にか我慢することを覚えてしまう。
学校にはあまり行かなかったのですか?
吉藤氏:もともと人とコミュニケーションを取るのが苦手で、小学校5年から3年半もの間、不登校になりました。中学は1年間だけ、工業高校、高等専門学校、早稲田大学には一応通っていましたが、授業にはあまりでず、自分の好きなことだけをやっていました。だから、協調性がないし、空気も読めません。学校で誰もが教わるであろう野球やバスケットボール、サッカーなどのルールも知りません。
そして先ほども言いましたが、とても我慢弱いです。ダメと言われたことでも、なぜダメなのかを突き詰めて、それを排除することでなんとかできるようにしようとします。
例えば歩きながらスマートフォンを操作する「歩きスマホ」は禁止されていますよね? みんなは「やってはいけない」というルールだからやらない。だけど、私は歩きながらスマホを操作したい。では、「なぜ歩きスマホは禁止されているのか?」と考えてみる。スマホ画面に集中してしまい、前を見ないで歩くことが危ないからですよね。ではスマホを見つつも、前を向いて歩ける方法を考えればいいのではないかと。眼は2個ついているので、できるはずです。そこで専用の眼鏡を開発し、一つの眼はスマホの画面、もう一つの眼は前を見れるようにしました。この眼鏡をかければ歩きながらスマホを操作しても安全です。
そういう発想は普通の人はなかなか持たないですよね。学校に通わなかったことで既成概念やルールにとらわれなかったのですね。
吉藤氏:そう思います。学校は基本的に自分が行きたい時に行けばいいのではとさえ思っています。私からみると、みんなとても我慢強くて、既成概念やルールに縛られているなと思います。
洋服一つとってもそうです。私は毎日、オリジナルの黒い白衣を着ています。ただ単に白衣がかっこいいから着たいと思ったからなのですが、多くの人は「白衣は医師や研究者が着るものだ」と思っていますよね。けれど私は、なぜ着てはだめなんだろうと。それに白衣だけれど、黒くしたらもっとかっこいいのではと考え、黒い白衣を自分でデザインし、着用することにしました。
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