初の採用は「女の子に告白する」ような気分だった

大塚氏:会社が出来上がってからの採用と、最初の立ち上げ時の人材の選び方ってちょっと違うのかなというイメージがあって。それこそ最初に2人を雇ったときにはどう選びましたか。

山田氏:手伝ってくれていた7人のボランティアの中から2人選んだんです。そのときは、もう女の子に告白かプロポーズするのと同じぐらい緊張して。2人とも大企業で働いていて、夜7時とか8時以降に手伝ってくれていたんですけど、本気なのか遊びなのか分からないんですね。要はデートはしているけど本気なのか分からないと。大企業にいながら、立ち上げをちょっと経験してみたかったから参加しているだけなのか、本気で人生変えてもいいと思っているのかって全然違うわけじゃないですか。

 だからもう、安い喫茶店に一人ひとり呼んで、入ってほしいと伝えるときにはもう本当にドキドキで。もし2人がオーケーして入社してくれても、売り上げが伸びなかったらその分はマイナスなので、政策金融公庫から700万円の借り入れをして臨みました。

 今もあまり採用基準は変わっていません。もちろん会社のステージによって必要な人材は変わっていくので、創業メンバーが全員幹部になれるかという問題は組織である以上は起こり得ます。でも創業メンバーは文化をつくるんです。だから、役割はあれかもしれないけど、求めるキャラクターなんかは一緒ですね。週5日、奴隷のようにお金のためにファクトリエで働くなんていう人とは働きたくない。

 人間って、1万時間を費やせばその道のプロになれると言われていますけど、楽しいことの方が1万時間使っちゃうんですよ。週末も考えちゃったりとか、さっき言ったように、考えずにただ作業をやるんだったら日本人もバングラデシュ人も一緒。でも先進国で時給が高い分、考えるという作業は必要で、高付加価値につながる。考えるということが僕らにとって重要なんですね。それは楽しくないと考えられない。

三輪氏:さっきマインドが変わった瞬間があったという話をされたと思うんですけど、どんな要素が積み重なってそういうマインドに至ったかをちょっと聞きたいなと思いました。

手紙を10通書けば誰とでも会える

山田氏:分かりました。2つあって、1つは、僕はマインドが変わって行動が変わるというのはあまり信じていなくて。行動がマインドを変えていく。さっき言ったように週1日ランニングするとか、週1日英会話をやるとか、ジムに行くとか、そういう決めたことをやっていればマインドが強くなってくという、そっち派なんです。

 もう1つは、やっぱり視座を上げるのはすごく大切だと思っていて。自分の視座を上げてくれるメンターを近くに置いたり、本を読んだりしています。

 僕にとってのメンターは何人かいるんですけど、例えばマーケティングということに関してはネスレの高岡浩三社長がいたり、マネジメントや人の心に関してはサッカー日本代表の元監督の岡田武史さんがいたり。地方を回っていてなかなか時間がないときには本を読むことで代替して気づきを得ています。最近だと、日経新聞で「私の履歴書」を書いていたアイリスオーヤマの大山健太郎会長や、ニトリの似鳥昭雄会長の本を読みました。

 さっき言ったように手紙を10通書けば誰とでも会えると思っているので、メンターが必要なときにはそういうことを発言している人に手紙を書いて会いに行く。だから行動することと、メンターによってマインドを変えていくという、この2つかなと思いますね。

鈴木秀彰氏(大野山福光園寺):手紙を書くというのは何かきっかけがあったんですか。

山田氏:僕はさっき言ったようにまず生命力が弱いんですよ、ほかの人よりも。頭も悪いじゃないですか。フランスに留学したのは、英語圏なんて倍率が高すぎて、僕なんか絶対にだめなんですよ。そういう競争のない世界に行きたいんですよ。

 となると、「Facebook」メッセンジャーとかもう山ほど送られてくるわけじゃないですか。でも手紙だったら、親展とか書いても全然返事が来なかったりしますけど、秘書が破り捨てない限りは、そういう可能性がまだあるわけです。人がやらないことですよね。そうじゃないと生き残っていけないということを身を持って分かっているんです。

鈴木秀彰氏:そういうインパクトを残す。

山田氏:インパクトというか、そうですね、ワン・オブ・ゼムじゃ戦えないので。僕らの商品を買ってくださった方には、工場からと僕からと2通の手紙を渡しているんです。差別化というよりは、何か熱を伝えるためには文字というものに入魂する方が思いが伝わるかなって。

奥平力(日経ビジネス編集部):人生はいかに幸せに生きるかというゲームだという話もあったんですけど、そのゲームに周りをどうやって巻き込んでいますか。

山田氏:ファクトリエのお客さんや熱狂的なファンって、まじめでフレンドリーな人たちが多いんですね。僕らのキャラクターとすごく似ていて。高級な腕時計も持っていないし、車もそんなに興味がない、何か思いのあるものを着る方が幸せかもしれないと思う人たち。いい人たちが集まっているコミュニティーなので、何かコミュニティービジネスを「ウェーイ!」といった感じでもなくて、こういう話に共感してくれた人たちが仲間になってくださっているということかもしれないですね。

 僕らは、「あなたから買いたい」に全員がなろうと言っているので。「Amazon」に対抗できる唯一の方法じゃないですか。うちの実家が周りに大型商業施設ができても、未だに残っているのは、それが理由だと思っているので、ここではエンジニアでも経理でもデザイナーでも、みんな接客するんです。

 僕は熱というのは伝えるんじゃなくて余熱が伝わるものだと思っているので。僕らが思い切り楽しんでいたらそこに人が集まってくるという。僕らがしているメード・イン・ジャパンのようなビジネスって、得てして正しさを伝えちゃうんですよね。オーガニックコットンを使おうとか。でも、そういう正しさよりも楽しさの方が重要で、楽しくしているところに人が集まってくるので、僕らが楽しいと思うことを軸にしています。

日経ビジネスRaiseのオープン編集会議では「ゼロイチ人材の育て方」をテーマにした企画を実施しています。イノベーションを活性化しようと、モノやサービスを創造する“ゼロイチ人材”を求める声は日増しに高まっていますが、同調圧力の強い日本社会ではそうした人材が育ちにくいといった批判も尽きません。そもそもゼロイチ人材ってどんな人? ゼロイチ人材の目を摘んでいるのは誰? こんなことをみんなで議論しています。

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