
最初は「不審者」扱いだった
野河氏:自分が良いと思ったことは良いんだと、自信を持てたきっかけはなんですか。
山田氏:逆に世の中の人って何も考えてないんだなと思いますよね。思考停止していて。だってアパレル業界の原価率20%なんて40年前から変わらないですからね。
野河氏:確かに。
山田氏:イノベーションって絶対評価の考え方からしか生まれないと思っていて。たぶんiPhoneが生まれたときって、ガラケーを持っていた概念じゃないと思うんですね。イノベーションって潜在的ニーズの解決なので、要は絶対評価なんです。こういうものがきっとあったらうれしいはずだという。工賃が10円上がればうれしいとか、20円上がればうれしいという世界だったのが、工場を前面に出すことになるなんてとんでもないイノベーションだったんです。絶対無理だと思っていたんですけど、値段も彼らが決めるなんてとんでもないことが起こったわけです。
今すでにある市場とは別に新しい市場をつくろうというときには、比べられないし、計算できないし、自分が信じる世界を自らつくるしかないというのが今思っていることなんです。リスクって実は、やるリスクとやらないリスクがあるんですね。やらないリスクもあるということをあまり世の中の人は気にしていない。
やるリスクは計算できるんです。例えば僕が今事業を失敗したとしたら、10億円弱の借金を個人一人で背負う。そうなったら、サラリーマンになって働きながら、夜にファミレスでバイトをする。その生活をやっていると70歳~80歳でちゃんと完済できるという計画が立てられるんですね。
一方のやらないリスクは、人生を後悔でだめにしてしまう可能性があるんです。何かというと、人生って幸せになるためのゲームなんです。生きるということは目的ではなくて手段なんですよ。やらなかった場合、自分の命を何に燃焼させたのか分からない。60~70歳になったときに、あれをやっておけばよかったのにというのがあるわけです。
やらないリスクが人生だめにするかもしれないんだったら、やるリスクを取った方がリスクは逆に低い。取ったとしても、僕が80~90歳になったときに人生を振り返ったら、酒の肴でしかないんです。あんなことあったなって。
野河氏:グッチで働いたのをきっかけに、日本のアパレル業の生産現場を元気にする夢を持って、それを実現したくて動いていたら叶ったという感じですか。
山田氏:最初は工場を回っても不審者扱いで(笑)。携帯の電波も通じないところに行って、ネットで服を売りましょうなんて言っても、怪しいやつが来たと。ある日、田んぼの真ん中を歩いていたら町内放送が流れて、スーツを着た怪しい男性が町内を歩いています。皆さん気を付けてくださいと。これ誰のことだろう怖いなと思って、周りを見回すと、スーツ着ているやつは俺しかいなくて。工場に行くと戸をぴしゃっと閉められたり、鍵をかけられたり(笑)。
こっちからしたら価格も向こうが決めてよくて、名前も出て、全部いいことづくしなのに何でだよみたいな、やさぐれる気持ちもあったのは確かです。でも、夜行バスに乗って帰っていると、明け方にこれは俺の夢に付き合わせているんだな。だからありがとうと言うべきは僕なんだなと思ったときに、何かこう、ちょっと視野が広がって。
今もそうなんです。工場にたくさんお金を払っていますけど、でもありがとうと言うべきは僕だし、うちのメンバーもそう。僕がやっぱり夢に付き合ってもらってありがたいというふうに変わったら、提携する工場がようやく決まったりとか。
だからグッチで働いたときに、日本のものづくりの現場から世界ブランドをつくりたいと思ったけれど、現実は甘くなかった。でも40回も50回も断られる中で、自分のマインドが変わって謙虚になったときに少し道が開けたという感じですね。
四半期に一度「自分の人生、夢に向かって歩んでいるか」を確認
宮本英典氏(東京応化工業):ゼロイチ人材を育てるために、子どもにはどんな教育をしたらいいと思いますか。
山田氏:僕は子どもがいないので分からないというのが正直なところなんですけど。教育ってすごく難しいですよね。それぞれの体験が違うので、それぞれの正義があるじゃないですか。僕なんて熊本で生まれ育ったので、自然の中でというのが僕の正義だし、ある人はお受験をして、中学受験、高校受験をしてこうやっていくのが正義って、いろいろな正義があるのですごく難しいですよね。
熊本大学の非常勤講師もしているので学生に伝えるのは、やっぱり本を読むこと、旅をすることという、この2つです。自分の疑似体験と想像力という意味では、僕は本に勝るものはないと思っているので、登場人物の人生を自分のものにできるという意味では僕はいいなと思っています。
旅に関しては、地点移動すると視座が上がるんですよね。熊本から東京に出てきたときに熊本を、日本から海外に出たときは日本を客観的に見られるようになった。地点移動することによって自分を客観視できるということも僕はすごくいいことだと思うんです。
宮本氏:社員教育についてはどうですか。
山田氏:3カ月に1回、それぞれの夢と日々の業務や会社の成長がどうつながっているのかを、全社員と面談をしながら確認しています。今している筋トレが将来のインターハイのためと思うのか、ただの筋トレと思うのかって違うじゃないですか。週5日間、単純に忙殺されてほしくないし、仕事をワタクシゴトにしてほしいと常に言っているので。
言われたことをただやるとなったら機械と一緒じゃないですか。20人なら20人、30人なら30人が集まったときに、30人分の仕事しかできないんだったらただの寄せ集めだと思うんですね。100人あるいは200人分の仕事ができるからチームという意味があるわけですよね。全員でそれ以上のシナジーを生むから。
そのためにはまず、自分の人生と仕事がちゃんと密接にかかわっていることが重要なんです。会社の成長こそが自分の成長につながるという人しか採用しないし、採用の3次面接ではみんなの前でプレゼンしてもらう機会を作っています。最終の僕との面接では、自分の人生の未来図を教えてもらって、死ぬときどうありたいかという話を聞いて、それと僕らの目指す道が一緒かというのを見極めています。それを入社後は四半期に一度、僕がちゃんと自分の人生、夢に対して歩めているのかをチェックしているんです。
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