
「工場を明かす」のが業界のタブーだったワケ
平尾耕一氏(メッツラー・アセット・マネジメント):あとはそれでコストと売値が分かってしまうから。
山田氏:工場の情報を明かすと、コストと売値が分かってしまう。ありがとうございます。ほかはいかがですか。
中堂薗哲志氏(リブワンス):責任の所在が明確になってしまう。
山田氏:もう返品先が工場になっちゃったりとか。ありがとうございます。いかがですか。
大塚夕奈氏(横浜市立大学学生):何かシンプルに、ブランドを求めているから、消費者が。
山田氏:別に興味ない、そもそも工場に。大正解ですね。どうですか。
三輪愛氏(ミニストップ):同じで、知名度がない工場の名前がブランドにくっつくとブランドの……。
山田氏:足を引っ張っちゃう。
三輪氏:何か嫌な考えですけど(笑)。
山田氏:いやいや、全然。皆さん正解ですね。こんなところで作っているのかと。そのブランドも作っている。安いものも作って高く売っているんだなとか、あとはほかのブランドに逆に取られちゃったり。ラコステのポロシャツを作っていますと言ったら、バーバリーがそこで作っちゃったりとか。要は工場での年間生産数は決まっているので、バーバリーに取られちゃったら大事な時期にラコステを作れなくなっちゃうんですね。
僕がファッション業界にいて強く感じていたのは、理想と現実のギャップ。理想はきれいなモデルの人がパーティーで着ているものなのに、現実としてはなかなかシビアな環境で作っていると。アパレルの主な生産地は現在、バングラデシュとかミャンマーとかベトナム。児童労働の問題や、最近はセクハラの問題もひどい。もう理想と現実のギャップどころか、理想が吹っ飛んじゃうんです。
だいたい20年ぐらい前にナオミ・クラインという人が書いた『ブランドなんか、いらない』という本があるんですけど、300ドルで売られているナイキのスニーカー「エアマックス」が、実は6ドルでフィリピンで作られているみたいなことを暴露したんです。その瞬間に不買運動が起こった。原価率なんて数パーセントしかなくて、残りは宣伝広告費でマイケル・ジョーダンに払っていましたということがばれたわけですね。
なので、ファッションビジネスにおいて工場情報をオープンにするというのはタブー中のタブーだったんです。僕も実際に1部上場企業の役員の方に呼び出されて、その仕事はやめなさいということを言われたことがあります。
工場の名前をオープンにすることに加えて、もう1つ大切なことですが、僕らは希望小売価格というのを捨てて、希望工場価格というものをやっています。例えば僕が今着ているシャツもジーンズも工場の言い値で買っている。世の中って普通は、希望小売価格から原価率というのを考えてやっていくわけです。
アパレル業界の原価率ってだいたいSPA(製造小売)で20~25%ぐらいが平均です。で、じゃあお客様は神様なので、神様の近くにいる小売りが、いくらだったら買ってもらえるかを一番知っていますと。だから、シャツだったら5000円で原価率20%だから1000円にしましょうといった形で決まっていくんですけど、このときにすごく大切なのは、日本人がやるべきものと途上国がやるべきものは違うということです。
例えば1万円のシャツを作ろうとしたら、そこそこ高いシャツですよね。でも原価率20%になると2000円になって、生地代が1300円くらいするので、700円で作らなきゃいけない。でも700円といったら、地方の平均時給がだいたい700円ちょっとなので、数十分で作らなきゃいけない。1時間以内でそんな良いシャツは絶対に作れないので。どこで手を抜こうかの話になる。
日本の時給が1000円としたら、中国は100円。バングラデシュにいたっては13円なんです。日本とは100倍ほども違うんですよ。日本は高齢化が進んできた職人1人に対して、あっちは100人若手を使えるわけですね。それが現実です。
でも、日本のものづくりって、途上国と同じことをやっているところまで守ろうとしていることが多いんです。言っている意味が分かりますか? 時給が100倍違うのに、日本のものづくりを守ろうって愛国主義で言うことと、本当に価値があって世界がびっくりするものをちゃんと作るということは違うんですよね。
僕は全然、愛国主義でやっているわけじゃないんです。ドライに見ても日本の服は世界で勝てる。日本発の世界ブランドをつくりたいときに、半端なバングラデシュと同じものを作っていても絶対に世界一流になれない。本物の日本の昔からの技術を使ってこそなれるんですね。
僕らの商品は工場の言い値で買って、だいたい倍の価格で売っています。世の中の25%とか20%からするとだいたい2倍から3倍原価が高くやっています。原価がそれだけ高いと、お店を持つとか、セールをやるとか、宣伝広告費をたくさんかけるといったことはできない。非常識という道を通るしかないんですよね。
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