企業批判も偏った見方だけは困る

いま出ている企業批判に対しては、どうお考えですか。

松下氏:新聞とか報道機関にそういうことがいわれてますけどね、まったくその通りだという点もありましょう。しかし、そうでない面もたくさんありますわな。しかし、そうでない面はあまり取り上げられていない。十の面があるとすると、七つの面は非常に好ましい。しかし三つの面は必ずしも好ましくない。やや弊害がある。しかし企業には、七つの面が働いているわけで、非常によく働く人でも酒を飲みすぎる人もあり、その酒を飲みすぎて困る面だけで、あいつはけしからん、けしからんと言っている。

 いま物価が上がっているが、こんだけムダなことをやっていたら上がりますよ。いまは“過”のわざわいですね。適切、適度に発展していくことはよろしいけどな、急速にピッチを上げると、いろいろな点に弊害が起こってきますな。適度、適正ということが、われわれの生活の上にいかに大事かということですな。あまりうまいものでも、食べすぎたらあかんですね。

過当競争で調和が失われてしまった

最近の世の中は、調和というか、そういう感覚が失われてきていますね。

松下氏:おっしゃる通りですわ。それは過当競争から生まれる。今日、資本主義というものは、ともすれば過当競争になるんですよ。過当競争は資金が豊富であるとか知恵が豊富であるとか、そういう人が勝つに決まっているんです。そうすると一方は成功し、一方は倒れ、非常に極端な差ができるわけですな。

 ルールをつくってやるとなれば、勝ってもきれいな勝ちになる。そうなればいいんですが、政府の行政をみていると過当競争を奨励しているようなところがありまんな。必ずこれは物価が上がりますよ。これは55年の経験でね。膚身で私は感じますわ。

 そこで力のあるものは力を乱用する。そうすると落伍者がどんどんでて社会は混乱し、結果は寡占企業になるわけですな。きわめて簡単なことなんですよ。

 一つの例をいうと、40年ほど前にソケットの乱売で、ルールを守ることのむずかしさをきびしく体験させられたことがあります。

商売は利益なけりゃいかんのだが

企業に対する風当たりが強まっていますが、会社というものはもうけなくてもいいんだというふうな、もうけることが悪いことだというような風潮が出ているのは間違いだと思うんです。ただ、もうけ方というのはありましょう。たとえば、最近の買い占めという問題は力の乱用だと思うのですが……。

松下氏:昔から買い占めということはいろいろありますわな。しかし、いわゆる社会を毒するような買い占めは、買い占めた人が結果において失敗しますわ。だから買い占めということは本来やるべきことじゃなく、また企業の本質に反しますわな。そこがやっぱり良識ですな。良識を常に考えないといかん。だから正当なものはよろしい。しかし、なにか人が困っているときにもうけるようなことを考えるのは邪悪ですわな。

 そういうことがいかんということは小学校の教育から教わらないかんですよ。そういう教育にしなかったら、長じたらみなそうなりますわ。いま問題になっているのは、そういう意図があってやったところじゃないですか。そうでなかったら、商売は利益なけりゃいかんのやからね、 政府もそれを認めるし、また大衆もそれを認めるはずですわな。

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