目標を公言するから「ゼロイチ」を生み出せる

今、日経ビジネスでは、起業をしたりイノベーションを起こしたりする、いわゆる「ゼロイチ人材」をどのように育てたらいいのかという議論をしています。溝口さんは、どのように思いますか。

溝口氏:ゼロイチ、ですか。私は、何かを成し遂げることと個人の幸せは別問題ではないかと考えています。

 シンガポールの建国の父、リー・クアンユーは亡くなる前に「後悔はない。私は自分の人生のすべてをこの国の建国に捧げてきた。ほかにやるべきことなどなかった。私が人生の最後に手にしたものは何か。それは成功したシンガポールだ。私が失ったものは何か。私自身の人生だ」と語ったそうです。これを聞くと、私は涙が出そうになります。

 後悔はない、という生き方を選択できる人は本当に少ないのではないでしょうか。逆に、幸せだったけど、やり残したことがある、という人は多いでしょう。

 私は自分を恵まれていると思っています。ここまで来ることができたのは、実力は5%程度で残りは運です。

 家庭環境が複雑だったので、幼い頃は人から必要とされていると感じたことはありませんでした。周囲のお母さんたちからは、「あの子とは遊んではダメ」と言われるような存在で、私もグレていました。

 そんな私が変わることができたのは、17歳でトレーナーになった時です。ものすごくやりがいを感じたんです。お客さんに頼りにされて、役に立ったり褒められたり。そうすると、頑張ろうと思えたんです。

 頑張るのは得意でした。お客さんの悩みを解決する知恵が身に着くと、どんどんそれが得意になって、自分を必要としてくれる人がさらに増えて、そうなるともっと期待されるようになり、もっとやる気が出てくる。

 私が起業したのも、一生懸命目の前のことをやっていたら、社会の課題や業界の課題が見えてきたからです。変えないといけないですよね、と周りの方たちに話していると、いつしか「業界を変えるのは君だよ」と言われるようになり、だんだんその気になってきて、「俺やるぞ」と。

 だけど、やるぞと言っても一人になって考えると、自分は高尚な人間じゃないことが分かっているので、「本当に俺、やれるのかな」と思うんです。しかし、それでも周りの方たちから背中を押されて、今の自分があるのだと思っています。ゼロイチが、自分で一歩を踏み出すことなのか、期待されて周囲に押されて出ていくことなのか、私にはよく分かりません。

 ただ、自分の経験を振り返ると、周りの方たちから押された結果、覚悟がついて、当事者意識が高まって、自分で学んでいくという姿勢が強くなって……という、そういうサイクルがぐるぐる回ると、さらに人の縁とか運とかに恵まれるようになっていくのだと思います。

 もし私がこの先、世の中を変えていくことができるとしたら、背景にはそういうサイクルがあるのだと思います。

 ゼロイチ人材をどう育てるか、という視点で考えると、私は、こうしたポジティブなスパイラルにいかに入れるようにするか、ということだと思います。いわば、環境設定の問題なんですよ。こうした環境をどう設定するかが、重要なのではないでしょうか。

 実際、私の周りには、そういう人が多いんですよ。類は友を呼ぶのでしょうか(笑)。メルカリの小泉さんやフォリオの甲斐(真一郎、CEO=最高経営責任者)さん、フロムスクラッチの安部(泰洋、社長)さん、クラシルというサービスをやっているデリーの堀江(裕介、CEO)さん、ココンの倉富(佑也、社長)さんなどは、相当エッジが効いている。

共通項はなんでしょうか。

溝口氏:みんな、目標を公言するタイプですね。当事者意識が高いんです。覚悟が決まっている。ある意味、自分勝手というか、おこがましいんですよ。日本を変えるのは俺だとか、業界を変えるのは俺だとか。

 そういう思い込みは何から来るかというと、元々の気の強さに加えて、目標とか課題を公言することで、応援してくれる人が現れて、さらに覚悟を固めているんでしょう。

周りに合せる“いい子”ではなくて……

溝口氏:自分勝手ですよね。世の中を変える人というのは、結局既存のルールとか常識、規制を破ることが気にならない人です。一般的な大企業だと出世できないタイプ。偉い人は近くに置きたくないでしょうから。私も、前職の時にトップに担ぎ出されたのは、会社が潰れかけた状況だったからです。ここがダメだとかいろいろ経営に口を出していたら、お前がやれよ、と。

 前の会社がつぶれるような状況にならなかったら、私は経営者になることはなかったかもしれませんね。