「極度のストレス症みたいになっている」

先行投資を続けてプラットフォームとしての地位を目指そうという考えは、どのようにして固まったのですか。

溝口氏: 私は前職で、24歳で経営者になったのですが、その時、多くの人がアドバイスをしてくれました。しかし、同じことを相談しているのに、人によって言うことが違っていて、戸惑いました。いろいろやって、上手くいくこともあれば、いかなかったこともあります。そこで、自分の中で決めたことがあります。それは、自分がたどりつきたい世界を作ったり、その中にいたりしことがある人のアドバイスを聞こう、ということです。

 そこで分かったのは、「上場すること」と「世界を変えること」は、全然戦い方が違うということです。上場を目的にしてしまうと、上場後に企業価値が50億円、100億円くらいの会社になっても、成長が鈍化して投資資金もなく、リソースが限られている中で苦しい経営を迫られるケースも少なくありません。いわゆる「マザーズの谷」とも呼ばれるものです。

 社会に大きな影響を与えるには、この「マザーズの谷」を回避しなければなりません。上場を急がないということは、上場までに死ぬリスクが高まるということです。しかし、それを覚悟で、ぐっと我慢してその先の飛躍を目指さなければならないと思います。だから、批判されながらも先行投資を続けてきたんです。

 上場を目標にすれば、自分のストレスの負荷は減って、今より心の平安は保てたと思います。しかし、その先を目指して先行投資を続けるということは、心の平安の観点からみればかなりきつい。

溝口さんもかなりつらいのですか。

溝口氏:極度のストレス症みたいになっている(笑)。しかし、大きな資金を調達することの代償のようなものだと割り切っています。私を支えてくれる株主や支援者に囲まれていますから、プラスマイナスゼロですね。

 前職でのフィットネスクラブの経営は本当に地道でした。毎月キャッシュフローを見ながら、地道にフィットネスクラブの会員数を積み上げていきましたから。エクイティ(出資)で資金を集めることはなく、現在のキャッシュフローをベースに銀行から借り入れをしていました。今は、未来の価値をベースにエクイティで資金を集めています。全く、経営の手法が違いますが、私はこの両方を経験しているから、いつでも(借り入れをベースにした地道な経営に)戻れる、という思いはあります。しかし、今勝負しないと、後悔する。チャンスがあるのだから、すごい戦いを挑むレールに乗らないと、後悔すると思っています。

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