FiNCがやっていることはメルカリに近い
ヘルスケア分野のサービスは競争が激しいですが、プラットフォームとしての地位を確立するのに必要なことは何でしょうか。
溝口氏:これまで、サービスやコンテンツの開発に先行投資を続けてきました。フィットネスや健康的な食事のレシピ、筋トレなどの分野では、日本では圧倒的なコンテンツを抱えていると自負しています。それぞれの分野の専門家や美と健康領域のインフルエンサーも、数千人以上が私たちのパートナーとなってくれています。
プラットフォームとしての地位を確立するのに重要なのは、ユーザーのエンゲージメント率、要するに使い続けてくれている人の率を高めることです。ある調査では、平均で1人36個のアプリをダウンロードしていても、その中で3つアプリがユーザーの80%の時間を占有しているそうです。ここに食い込むには、アプリの不具合を減らすといった地道なサービスの改善しかないと思います。
競争が激しくなる中、あらゆる要素が良くないとユーザーに見放されます。ラーメンでもそうですよね。立地や味付け、トッピング、接客……。そういう細部にどれだけこだわれるかが勝負でしょう。
そのため私たちは、ユーザーの利用状況(データ)をベースにPDCAを回し続けてきました。社員の半数以上、100人以上のエンジニアが、ただひたすらにプラットフォームの改善をしています。
先日、メルカリの小泉文明社長にインタビューしました。小泉社長は、消費者向けのサービスでは1位が圧倒的な勝者となり、2位以下では意味がない。だから、最初から1位を狙うために大胆に先行投資をしてきたと語っていました。
溝口氏:私たちもやっていることはメルカリに近いと思っています。メルカリの場合、買い手が増えれば出品者が増え、出品者が増えれば買い手が増えるという好循環がありますよね。私たちも同じで、健康に関するデータを預けてくれる人が増えれば、最適なソリューションを提供できるようになり、そうなるとさらにデータを預けてくれる人も増えるという正のスパイラルに入っていきます。
私たちの領域においても、1社しか生き残れないと考えています。ただし、まだ世界で1社もヘルスケア分野のフェイスブックやツイッターのような存在は誕生していません。私たちは、そうした存在になりたいと考えています。
これまでは先行投資が多かったので、周囲からいろいろ揶揄されることもありました。赤字を垂れ流しているとか、ビジネスモデルが見えないとか。
しかし私は、最初からヘルスケア分野のプラットフォームを作ることにこだわってきました。“ビッグサンダー・マウンテン”をつくるのではなく、“ディズニーランド”を作りたいんです。他社のプラットフォームにコンテンツを提供するだけの存在に甘んじる気はありません。
今回調達した資金は、どのように使う計画ですか。
溝口氏:非常に変化が激しくなっていますので、いろいろな機会に対応できるような状況にしておくのが狙いです。
まず、引き続き開発は強化していきます。アプリもそうですが、AI(人工知能)などの開発も強化して、メルカリのようにヘルスケアの分野で圧倒的なポジションを確立するために成長を加速させます。
プロモーションにも積極投資をしていきます。今、「ヘルスケア」と聞いて純粋に想起される会社やサービスはありません。「ヘルスケア」と聞けば、誰もが「FiNC」を想起するような状況をいち早く作りたいですね。そのために、40~50億円、年間では数十億円をプロモーションに投資をしていきたいと考えています。
株式上場については、どのような方針ですか。
溝口氏:上場は、世界の健康課題を解決するための1つの手段で、いつでも上場できるような準備はしていこうと考えていますが、今は未上場でも資金は一定量集まる状況なので急いではいません。
最近では政府も2023年までにユニコーン(未上場で時価総額10億ドル=約1100億円)を超えるスタートアップを20社輩出しようと旗を振っています。ユニコーンになれるかどうか、最終的に世界で勝負をできるプラットフォームになれるかどうかは、どれくらい投資をできるかがカギを握っています。先行投資の額が、最終的な「高さ」を決めるんです。
これまで日本のスタートアップは、調達できる資金が米国などと比べて少なく、長期的に投資を回収するようなビジネスプランを練りづらい状況がありました。しかし、プラットフォームを作るには、最低でも100億円の資金が必要だろうということは当初から考えていた。
今後は、さらに資金力の競争になっていくと考えています。今回、私たちが示したかったのは、スタートアップが100億円を集められる、ということです。そういうメッセージを、ベンチャーのコミュニティーに発信したかった。
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