今年、創業100周年を迎えたパナソニック。「経営の神様」と呼ばれる松下幸之助が創業した日本を代表する家電メーカーは、デジタル時代にどのような会社に変わろうとしているのか。日経ビジネスRaiseユーザーとともに考える「オープン編集会議」プロジェクトをスタートする。

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■お知らせ■

日経ビジネスの「オープン編集会議」プロジェクトでは、編集部と一緒にパナソニックの未来を考える「第4期オープン編集会議メンバー」を募集します。プロジェクトのテーマは「みんなで変えるパナソニック」です。詳細は記事最後の参加者募集概要をご覧ください。ご応募、お待ちしております。

オープン編集会議とは

読者が自分の意見を自由に書き込めるオピニオンプラットフォーム「日経ビジネスRaise(レイズ)」を活用し、日経ビジネスが取材を含む編集プロセスにユーザーに参加してもらいながら記事を作っていくプロジェクト。オープン編集会議メンバーや取材協力者が選考に参加する、創業5年以下のスタートアップ起業家を対象にした「日本イノベーター大賞・日経ビジネスRaise賞」の候補者を募集している。

(本記事は日経ビジネス本誌7月23日号特集「オープン編集会議で考えた イノベーションは起こせる」から一部を抜粋、再編集したものです。肩書きなどは当時のまま)

シリコンバレーの「パナソニックβ」

 今年、創業100周年を迎えたパナソニック。「経営の神様」と呼ばれる松下幸之助が創業して以来、日本を代表する家電メーカーとして世界に活動の場を広げてきた。

 だが今、デジタル化の波に飲まれている多くの家電メーカーと同じように、パナソニックもまた、イノベーションの停滞に苦しんでいる。その要因の1つが、組織に眠る人材を生かし切れていないことだ。

 その変革の地が、米シリコンバレーにある。プロジェクトを統括する宮部義幸・専務執行役員CTO(最高技術責任者)が「イノベーション量産化のマザー工場」と位置付ける、「パナソニックβ(ベータ)」という組織だ。独ソフト大手SAP日本法人のバイスプレジデントだった馬場渉ビジネスイノベーション本部長が指揮を執り、昨年7月に立ち上げた。

 「シリコンバレーでイノベーションが生まれるのは、技術が優れているからではない。起こす手法やそれを知る人材が次々と育つ環境があるから」と馬場氏は語る。βで試みているのは、そうした人材を社内で増殖させることだ。

 「まったく新しい会社を創業したようなもの」と宮部氏が強調するように、βの製品開発手法はパナソニックとは大きく異なる。何より優先するのはスピードで、住宅関連の新製品・サービス開発プロジェクトでは、昨年11月までの約4カ月間で約1300件のアイデアが生まれ、約80件が試作に進み、3件が最終製品目前までいった。「今秋には商品化する計画だ」(宮部氏)という。

パナソニックの宮部義幸CTOは「まったく新しい会社を創業したようなもの」と話す(写真:陶山勉)

 別組織を作ったのは、従来型の組織では今後必要となる人材は育たないと考えたからだ。パナソニックが得意とするのは、不特定多数に向けてハードウエアを大量生産するビジネス。役割ごとに細分化された組織で、「VHSを置き換えたDVDのようなイノベーションを起こしてきた」(宮部氏)。

 だが、iPhoneに象徴されるように、現在はハードとしての機能だけではなく、ソフトウエアやデザインなども優れていなければ競争力はない。一橋大学の延岡健太郎教授は、「デザインなどの価値も統合的に理解する人材が必要」と指摘する。

 シリコンバレーというパナソニックにとって「辺境の地」で小さな組織を作ったのにも意味がある。少人数でアイデアの発案から試作、製品化までを経験させ、機能だけではなくソフトやデザインなどの価値も一体的に俯瞰できる人材を育成するためだ。ボストン コンサルティング グループの植草徹也シニア・パートナーも「辺境でしかイノベーションは起きない」と話す。

 βに常駐するスタッフは20人ほど。そこに、パナソニック本体から3カ月ごとに30~40人のエンジニアやデザイナーを送り込む。このメンバーが短期間でシリコンバレー流の製品化のサイクルを経験し、帰国後に同僚にβでの開発手法を伝える役割を担う。

 「約27万人のパナソニックグループ社員を一気には変えられない。漢方薬のように少しずつ変えていくしかない」と宮部氏は語る。