アプリをピンク色にする?

森豊史氏(東京都立産業技術研究センター):ユーザーとのコミュニケーションをどうしたのか、より具体的に聞きたいです。

辻氏:インターネットサービスなので基本はメールでやりとりしましたが、実際に声を聞くためユーザーの下に足を運んだこともあります。ただ間違えてはいけないのは、全ての人に受け入れらるようにと考える必要はないということです。例えば、フェイスブックを使わないユーザーに我々のサービスを使ってもらおうとしても、なかなか難しいですよね。だから、ターゲットを決めてその人の意見を中心に聞いていきました。ターゲットは「自分たち」だったので、近い世代の声を参考にしましたね。

 実は女性をターゲットにしようと考えた時期もあります。ただ「アプリをピンク色にする?」とか絶望的な議論になって、途中で「止めよう」と(笑)。やっぱり自分たちが理解できることにしました。アプリをピンク色にしても、ダメだったでしょうね。

熊本有紗氏(国土交通省):ITの世界では細かいマイナーチェンジを繰り返すことが多いです。失敗した際はどう判断していますか。

辻氏:そんなのしょっちゅうですよ。やってみて、ダメなときはすぐに修正しますね。かつては週3回、サービスのリリースをしたこともあります。ただ「失敗」という言葉は使わなかった。「ラーニング(学び)」だと。とにかくやらないよりも絶対にやると心掛けていましたね。

黒須香名氏(スタディプラス):マネーフォワードは株式上場も果たし従業員も増えました。組織が大きくなると「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を浸透しづらくなるのでは?

辻氏:やっぱりコミュニケーションの量と質を増やしていくしかありません。朝会や表彰、ランチ会などで社員とコミュニケーションはなるべく取るようにしています。

 組織が大きくなると、社員との間に壁はできてしまいます。「成長痛」なのかもしれません。その時々で課題があるので、早め早めで手を打つのが大事ですね。上場後に一気に辞めた時は辛かった。でも理由を聞くと「スタートアップに行きたい」と。そういうのって止められないですからね。自分もそうでしたし。「頑張ってね」「うまくいかなかったら戻ってきてね」と言うしかない。

栃木ひかる氏(ワークスアプリケーションズ):会社が大きくなり、人が増える中で、「攻め」と「守り」のバランスをどうされていますか。

辻氏:サービスのステージによりますよね。我々のクラウド会計はすでに多くのユーザーに使っていただいており、簡単には大胆な変更はできません。一方で新規のプロダクトも多く、そこは「行くぞ」と攻めていけます。

 僕が気を付けているのは、スモールチームで意思決定を進めていくことです。(企業間決済サービスを手掛ける)「MF KESSAI」という子会社は30代前半の社長に任せています。優秀なので意外とできちゃう。マネーフォワードだからできる体験をさせることは意識しています。マネックスの時に松本大社長に任せてもらいました。自分自身で失敗したほうがいい。優秀な人は言うことを聞かないしね(笑)。

山中氏:創業1年目で5億円を調達しました。秘訣はありますか?

辻氏:VCからはスゴイ断られたんですよ。有名なベンチャーキャピタリストにも「こんなサービス使わないよ」と言われましたし。最終的に出資してくれたジャフコの方に言われたのは、「プロダクトがいい」「チームのバランスがいい」という2点でした。

 やはり「このチームだとうまくいく」と見てくれたのが大きいですかね。起業にはストーリーが重要。僕もソニーやマネックス時代から「日本で金融サービスに困っている人が多くて何とかしたい」と思っていました。

 今、僕らは(スタートアップに投資をする)ファンドも運用してますが、原体験がある人はしんどい時にも踏ん張れます。「起業したい」「お金が欲しい」というだけの人には辛いですよ。基本は心が折れまくりですから。