「イケてると思っていたけど途中から『アレっ?』となって。でもその人に断言されて心がポキッと折れた」――。家計簿アプリがヒットし、日本のフィンテック企業として初の株式上場を果たしたマネーフォワード。だが、創業当初に手掛けていたのは、家計管理や資産運用をオープンに情報交換するSNS「マネーブック」。自信を持って世に送り出したが、「顧客は10人、20人だった」と辻庸介社長CEO(最高経営責任者)は振り返る。止めるに止められない状況に終止符を打ったのが投資家の「俺だったら絶対に使わない」というひと言。冒頭のセリフはその時の辻社長の心境だ。そこからマネーフォワードは方針を転換し、オープンなSNSではなくクローズドな家計簿アプリに大きく舵を切った。オープン編集会議メンバーとともに辻社長に「起業のリアル」を聞いた。

オープン編集会議とは

読者が自分の意見を自由に書き込める双方向メディア「日経ビジネスRaise(レイズ)」を活用し、日経ビジネスが取材を含む編集プロセスにユーザーの意見を取り入れていくプロジェクト。一部の取材に同行する「オープン編集会議メンバー」を公募。現在、25人のメンバーとともに、起業にまつわる様々な疑問をユーザーとともに考えるオープン編集会議第2弾「起業のリアル」を実施中。

■マネーフォワード辻社長への取材に同行したメンバー(敬称略)

熊本 有紗国土交通省
黒須 香名スタディプラス
栃木 ひかるワークスアプリケーションズ
宮本 英典東京応化工業
森 豊史東京都立産業技術研究センター
山中 康史Face2communication
水庫 郁実早稲田大学(日経ビジネス編集部インターン)
(注:発言内容は個人の意見であり、所属する企業や団体を代表するものではありません)
マネーフォワード辻庸介社長兼CEO(最高経営責任者)
京都大学農学部を卒業後、ペンシルバニア大学ウォートン校MBA修了。ソニー、マネックス証券を経て、2012年に株式会社マネーフォワード設立(撮影:吉成大輔、以下同)

佐伯真也(日経ビジネス編集部):辻社長は、ソニーの経理部、マネックス証券など金融畑を経てマネーフォワードを起業されました。もともと起業は志していたのでしょうか。

辻庸介氏(マネーフォワード社長CEO=最高経営責任者):僕自身、起業したいという意識はなかったですね。マネックス証券時代からお金は大事なのに、いいサービスは少ないと感じており「ないなら自分でやってやろう」と思ったのがきっかけです。最初はマネックスの新規事業として考えていましたが、リーマンショックもあり新規事業の投資が難しい時期でした。「だったらやるしかない」と起業に踏み切った。したいというより、新たな金融サービスを立ち上げたかったのが本音です。

佐伯:起業の際に不安はなかったのでしょうか。

辻氏:不安しかないですね。最初はワンルームマンションでスタートですからね。

佐伯:創業時のチームはどう作ったのですか。

辻氏:6人でスタートしたんですよ。それも、いろいろ誘っても友達しか来てくれないんで。友達を誘って、説得して。1人はソニー時代の同期で、数人はマネックス時代の同僚で当時は別の会社で働いていた人たち。ただ、直接マネックスから引き抜くということは、仁義的にしたくありませんでした。出資もしてくれましたし。だから、マネックスを辞めて、他の会社で働いている人で、一緒に働きたいと思う人に声をかけました。それと、留学時代の同級生に声をかけたり、そんな感じでしたね。

佐伯:1人では起業は難しかった?

辻氏:1人だと、ここまで来ていないと思いますね。やっぱり、辛いんで初めは。ディスカッションもできますし、励まし合えますし。

 始めなんて地獄みたいなもんですからね。ワンルームマンションで、稼ぎがなくて、先行きも真っ暗闇で。

 ゼロイチは正解が何かわからないので、例えて言うと、真っ暗闇の中で出口に向かって全速力で走ろうとしているんですけど、実は出口がこっちで走っているのは別の方向だったとか。それだと、一生たどり着けないじゃないですか。そういう恐怖がありました。

「ダメだ」と思っても口に出せない

佐伯:創業当初は、家計簿アプリではなく、「マネーブック」という資産管理情報のSNSを手掛けました。

辻氏:結果的には出口が別だったと言うか。半年くらい続けましたが、顧客は10人とか20人とかもう散々。チームの皆は心の中で「ダメだ」と思っているのに口には出せない(笑)どこかに出口があると思い込んでいましたね。

 でもある日、東京大学の松尾豊先生にプレゼンする機会があって。その時にシンガポールの投資家が4人いたのですが、3人は「いいけど使うの怖いな」と。でも、そのうち1人には笑いながら「俺だったら絶対使わない」と言われて……。