起業したいが、何らかの事情で今すぐにはできない。そこで、起業したばかりのスタートアップのメンバーとして経験を積み、時機に備えるという手がある。そんなスタートアップへ転職する人は増えているのか。20代向けの転職プラットフォームなどを運営するビズリーチ(東京・渋谷)の中嶋孝昌執行役員キャリトレ事業部長に聞いた。
ビズリーチの中嶋孝昌執行役員
ビズリーチの中嶋孝昌執行役員

カネだけでなく人がほしいスタートアップ

設立間もないスタートアップ企業への転職は増えているのでしょうか。

中嶋孝昌・ビズリーチ執行役員:増えています。当社の20代向けの転職サイトの「キャリトレ」を使った採用数は、2017年の全体の伸びが前年比64%なのに比べ、設立10年以内の企業への転職者は79%増えています。

 背景には、採用側の仕組みの変化があります。スタートアップの成長には、資金はもちろんですが優秀な人材の獲得も欠かせません。そこで、ベンチャーキャピタル(VC)が出資先スタートアップの人材採用まで支援するようになっています。VCはヘッドハンティングファームと組み、当社のような転職希望者のデータの中から適切な人材を探し、スタートアップへ紹介するという流動化の仕組みがここ数年で構築されてきています。

スタートアップが必要とする人材はどんな人でしょうか。

中嶋氏:スタートアップ側の事業フェーズによって異なりますが、たとえばITの会社であれば、立ち上げて最初の出資を受ける際に、CTO(最高技術責任者)クラスの正社員がいることが出資の条件になります。

 しかし、その時期のスタートアップへの転職は、転職者にとってはリスクが高いですよね。スタートアップは十分な給料をまだ支払えない場合が多く、報酬の一部を株式で支払うなど、採用の条件も一般の転職とは異なります。そのため、この時期の転職事情は可視化されておらず、知り合いなど縁故採用が多い時期です。

 ところが、資金調達後は、状況が変わってきます。COO(最高執行責任者)やCFO(最高財務責任者)などの採用が始まるからです。スタートアップの多くは、人材獲得競争を有利に展開しようと、資金調達をするとその事実を発表します。

 資金調達をすると、社長のリソースの大半はVCへの説明などファイナンスに向いてしまいます。一方、製品やサービスの開発や改良、拡販などの業務が山ほどあります。資金調達を受けるまでは、そうした業務の大半を社長が担っている場合が多いのですが、社長は投資家への説明が忙しくなるので、「社長の右腕が必要だ」という状況になるのです。この頃から、採用活動が非常に活発になってきます。

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