実際、起業環境は整っているようだ。東京都立産業技術研究センターの森豊史氏も、「東京都が運営するスタートアップ支援のインキュベーションオフィスは3万円代で入居ができる。国の政策金融公庫が無利子で20年もスタートアップに貸付を行っている」と行政支援が充実している点を挙げる。マカイラの鈴木瞳氏も「日本では政府が起業を制度面で後押ししようと、さまざまな手続きをオンラインで完結するように取り組み始めている」と話す。

 業種によっては日本は特に起業しやすいという意見もあった。「業種で起業のハードルは違う。インターネット系のサービスであればクラウドサーバーのコストも安く起業しやすい」と話すのは自らもネットサービスを手掛ける椎谷豊氏(トラベロコ)。「事業モデル的にも起業はしやすくなっている。やはりインターネットの存在が大きい」(大正製薬ホールディングスの田中宏氏)とITの進化を挙げる声も目立った。

業種でハードルは変わる?

 一方で、「古い業界、例えば小売りだと在庫を抱えるので起業のハードルは上がる」とフリーランスで企業の新規事業支援などを手掛ける植竹理江氏は話す。「モノづくり系のスタートアップは日本はこれから増えてくるのか」(大日本印刷の入江清隆氏)という疑問も挙がった。

 大企業に勤務するメンバーを中心に日本での起業のハードルの高さを指摘する意見もあった。「起業というテーマに興味があったとしても、(実際に起業した場合に)生活できるのかという不安があると思う」(ミニストップの三輪愛氏)。「イノベーションを起こすことを目指す起業となれば、前例がない新規事業を進めていくだけに会社勤務をする者としてはすごく怖い」(東京応化工業の宮本英典氏)。

 日本の現在の起業環境をポジティブに捉える2期メンバー。ただ、起業家の数は海外には遠く及ばないという意見が多数を占めた。フリーランスの植竹氏は「韓国や中国はまさにサバイバル。新しいアイデアが出ると大企業にすぐ奪われてしまう」と競争環境の差を指摘する。

 日本における起業の阻害要因は何か。大日本印刷の入江氏は「日本の終身雇用も影響しているかもしれない。日本は安心して働けるが、韓国の大企業は出世できなければ一定の年齢で辞め、そして起業する」と話す。

 トラベロコの椎谷氏も「日本には雇用の流動性がないのが問題。会社に縛りつけられてしまって起業ができない」と同調する。ウェブマスターズの原島洋氏は「雇用の流動性がないと、起業に失敗した際に社会に戻れなくなる。チャレンジを評価する仕組みが必要だ」と訴える。

 もっとも椎谷氏は「副業から始めて事業が軌道に乗ってから起業するのは1つの手だ」と自らの経験を元に話す。山本智氏(ちそう)は「起業が『いいこと』だからするのではなく、解決したい課題があるけれどほかに手法がないから起業する」と指摘。「仮にやりたいことが会社の業務にマッチしないのであれば、副業の延長のような形でやっていくのも一つのやり方だろう。周りにもそういう人が多い」(電通国際情報サービスの山下雄己氏)、「ゼロイチでどこかの企業に勤めるのではない働き方はある。副業で大企業からスピンアウトするような事例を知れば、起業が『清水の舞台から飛び降りる』と捉えなくなるのでは」(TOTOの山中啓稔氏)という声もあった。

 自らの周りに起業家が生まれることで、起業を促進できるという意見も多かった。「大企業からベンチャーに転職したことで社長が何をすべきかよく理解できた」(原島氏)、「名古屋にスタートアップは少ないが、偶然、ランナー仲間が起業家だった。身近にいるのは大きい」(椎谷氏)。留学生に着物を着付けるボランティア活動をしている日本語教師の桂千佳子氏は「起業が怖いとすら感じることもないような段階だったが、この場で実際に起業している人の話を聞いたり話したりしてみて『あれ、もしかして、私にもできる?』と思った」と感想を話した。

 ただ、依然として日本では、起業家になることに対して社会の偏見がある。学生時代に起業経験があるセルムの米川植也氏 は「迷ったが、結局は就職した。周囲の友人からは『起業するの?そんなに意識高いわけ?』『起業なんてリスクあるじゃん』といったことを言われた」と打ち明けた。こうした偏見をどう克服するかも、起業家を増やすうえでの課題になりそうだ。

 ここで紹介したのは、オープン編集会議のキックオフ会議で出た意見の一部です。イノベーションについては、引き続き読者の皆さんとともに、ユーザー参加型の新メディア「日経ビジネスRaise」で議論していきます。Raiseの「オープン編集会議」に寄せられたご意見は、日経ビジネス本誌9月下旬号の企画「起業のリアル(仮)」に反映していきます。

皆さんのご意見をお待ちしております。

>>>オープン編集会議「起業のリアル」へ<<<