新しいものはマイノリティーから普及する

庄司容子(日経ビジネス編集部):イノベーションは女性の方が受け入れられやすいということでしょうか。

森川氏:新しいものはマイノリティーから普及します。今成功している人たちは新しいものが怖いんですね。例えば昔なら、ワープロを使ってるおじさんにパソコンを勧めても頑なに使わない人たちがいたでしょう。

 なるべくマイノリティーで先端的な人から新しいものを提供するべきだと思います。パソコンが普及しだした時代はギークと呼ばれる人たちが多かったんですが、モバイルが中心になってから女性になりました。

森川氏とオープン編集会議メンバー

額田氏:日本で立ち上げた事業を海外に展開する場合でも、同じような意識で進められているんですか。

森川氏:そうですね。日本では、若くおしゃれな女性に皆が憧れるという構図がありますよね。でも、秋葉原で流行っているか、青山で流行っているかでは、それを見た人たちの受け止め方は全然違う。やはり青山の方が、自分もそうなりたいという気持ちが喚起される。

 それと同じように、アジアでいうと都市部でお金を持っていて、おしゃれな女性から始めた方が、他のユーザーが追随しやすいです。フェイスブックも同じで、米ハーバード大学の人たちが使っていたから広がった。あれが南部の無名大学だったら、ここまで広がっていなかったかもしれません。

木戸美帆氏(オープン編集会議メンバー/日産自動車):これまでのコンテンツが写真中心であったのに対し、現在は動画が主流になりつつあります。コミュニケーションの手段にボディランゲージがありますが、人間が動いているという原始的なコンテンツが、実は最強と考えることもできるのでしょうか。

森川氏:単純な理由として、刺激が強いものに人は惹きつけられることが挙げられます。今までは動画が最終地点で、動画を4K、8Kとより高解像度にすることが求められていました。ところが、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)の技術が出てきたので、平面ではなく立体で物を見る、家の中ではなく外で楽しめるといった、求められるコンテンツの条件が次のステージに変わりつつあります。

高野慎太郎氏(オープン編集会議メンバー/Makership):去年や一昨年あたり、私の同世代の起業家の人たちの多くが、VRで広告を配信するサービスを立ち上げていました。ただ、今そういった企業はことごとくなくなっています。VRはどういった時期にあるのでしょうか。

森川氏:VRやARは産業としてはまだ若く、広告配信についてはビジネスモデルが確立していないのでしょう。私の中の判断基準としては、居酒屋で若い子たちが、そのテーマで話して盛り上がるかどうかを見ています。ビットコインは、銀行の盗難事件が起こるまでは実はブームが来ていたんです。地方の居酒屋に行っても、ビットコインは儲かるという話題で盛り上がっていました。

 VRやARで盛り上がるかというと、ポケモンGOでは盛り上がりました。ただし、あれをARだと認識して盛り上がっている人たちは少数だったので、ARそのものの波にはつながりませんでした。

額田氏:VRやARが発展したとして、実際の体験をこえることはあるのでしょうか。

森川氏:オフラインにはオフラインなりの価値があると思います。男性が商品を買うとき、なるべく手っ取り早く安く手に入ることを望むのですが、女性では比較的そのプロセスを楽しむ傾向にあります。

 その最たる例がウィンドウショッピング。男性はすぐ疲れてしまって帰りたがりますが、女性はずっと時間をかけてショッピングを楽しんでいる。つまり、非効率の中にエンターテインメント性があるということです。利便性を考えればオンラインが優れていますが、オフラインの価値を挙げるならそこだと思います。

小西光春氏(オープン編集会議メンバー/オムロンサイニックエックス):大企業の中で、どういった人がイノベーションを起こせるのでしょうか。スティーブ・ジョブズなどをイメージすると、人に嫌われるくらい厳しい態度、覚悟でやる必要があるのでしょうか。

森川氏:信頼や尊敬される人だと思います。例えばスティーブ・ジョブズは、性格の良し悪しは別として、この人は凄いと尊敬されていた。嫌いだと思う人もいたでしょうが、リスペクトを集めていたからこそ、社員がついてきたんです。会社で一番まずいのは、好かれているけど尊敬されていない人です。飲み会には誘われるけど仕事の相談は受けないようなタイプです。