必要なのは日本の自信回復だ

「日本にはイノベーションを起こせる素地がある」と話す田中氏
「日本にはイノベーションを起こせる素地がある」と話す田中氏

なぜ異分野融合が起こらず、没交渉になってしまうのでしょうか。

田中氏:日本には、自信が欠けているからだと思います。これまでアジアで自分たちだけが優等生だったのに、日本よりも成績の良い国が隣にいくつか出てきた途端、相対的に落ちてきて自信をなくしてしまっています。

 自信を失っているからこそ、従来の研究、技術に一生懸命取り組んでいる人たちが口を閉ざしてしまい、一層イノベーションを起こしにくい環境になっていると私は思います。

 実際に私たちは戦後、例えば製造業の現場でずっとイノベーションを起こしてきたのです。当たり前のようにやってきたことは、イノベーションだったんですよと、声に出して言う必要があるのではないでしょうか。そうしなければ、「日本が行ってきた今までのやり方は、イノベーションじゃなかったんだ」というふうに、ますます自信を失ってしまうからです。

日本の自信欠如が異分野融合を阻んでいるということですね。

田中氏:なぜ欧米が上手くいっているかというと、何かの目的に向かって、分野を超えて、場合によっては国境さえも越えて色々な人が集まるからです。質量分析の学会を例に挙げますが、米国では医学とか薬学、それから物理、化学、様々なバックグラウンドを持った人たちが大学の壁を越えて、1つの目的のために集まっているわけです。

 そういったことは日本でもできると思います。日本には本来、チームワークを重視するというメンタル的な素地はあるんじゃないでしょうか。特に製造業の現場では、1つの目的のために人が集まるということが、自然発生的に起こっていると思います。

 革新的なイノベーションを起こすんだと肩肘を張らず、今手元にあるものを、別の方法で展開してみる、あるいは課題を変えてみる、新しい分野に行ってみる……。そんなことを考えれば、今まで何をやっていたんだと思えるような成果が出てくるんじゃないかなと思います。

田中氏のインタビューは、本日(7月23日)発売の日経ビジネス本誌の特集「オープン編集会議で考えた イノベーションは起こせる」にも掲載しています。ぜひ、特集記事についてのご意見をお寄せください。(本誌特集記事は日経ビジネスオンラインの会員無料ポイントでご覧いただけます)

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