既存事業の否定も必要

エプソンは日本でも大容量のタンクを搭載したプリンターを発売した

2010年に新興国で発売して大ヒットした大容量タンクのインクジェットプリンターは、従来のカートリッジ方式という既存製品をある意味否定する製品ですね。

碓井氏:エプソンにとっては、カートリッジという消耗品の販売で稼ぐビジネスモデルからの劇的ともいえる転換でした。本体価格を高く設定しているのに売れたのは、結局、新興国の人がそれを求めていたからです。世の中の人には、「本当にきれいなものを、コストを気にしないで印刷したい」という要求があった。その原点に立ち返ったわけですね。

エプソンは2016年3月、「インクジェット」「ウエアラブル」「ロボティクス」「ビジュアル」の4つの領域でイノベーションを起こすという長期ビジョンを定めました。なぜ、こういう形にしたのですか。

碓井氏:この4つは、自分たちが主体になって世の中をよくしていくことができるという自信のある領域です。新しいテクノロジーを使うにしても、今までやってきたベースがあるわけですから、それを使わない限り、エプソンが特に強い領域にはなり得ない。これまで培ってきたものを抜きにして、新しいものを作り出すというのはあり得ないんです。

「なくてはならない会社になる」というビジョンも同時に掲げています。

碓井氏:世の中の人たちがこうあってほしいと思うもので、かつ新しい価値を目指さないと、意味がない。私たちがこういうのを実現するのが夢だと思っても、世の中の人たちが同じように思っていなければ独善になってしまう。自分たちの目指すものと、社会が欲している新しい世界を共有しないと、何でもかんでも世の中にないことや1番ならいい、となりやすいわけです。それはイノベーションではありません。

 だけど1番でないものを人まねでやっていても、イノベーションたり得ない、これもまた確かなんです。だから技術者には1番を目指してもらわないといけない。独創的で挑戦的でないとイノベーションじゃないという二面性があるんだけど、これがややもすると独善的になるきらいもあるわけです。

「なくてはならない会社」を目指す(写真:竹井俊晴)

独創的が独善的になり。

碓井氏:それでは世の中はよくならないから。そういうものを1つの方向感を結ばせるためには、価値観の基軸を合わせておかないといけないということで、「なくてはならない会社」というあるべき姿を定めました。1番を目指してもらわなければ困る。でも1番になるというのはイノベーションを起こす1つの手段なんです。世の中の人たちに喜んでもらう、感動してもらう、こういうイメージを常に持ちながら1番になることを目指すと。

 エプソンがないと、こういうものは絶対できないと感じてもらえるような会社でありたい。私たちは技術オリエンテッドの会社なので、1番になることを考えているんだけど、世の中をどういうふうに変えようとか、そういうことに対する考え方というのは過去、少し希薄だったことは確かです。

これからどんなイノベーションを起こしていきますか。

碓井氏:紙を使った印刷やその文化、生産財としての印刷の在り方を根底から変えられるんじゃないかと思っています。紙だと、ダイレクトメールにしても、どこかで印刷して送らなきゃいけないし、環境に悪いというのが今までは常識でした。

 どこかでそういう固定観念があるけれど、それを打ち破りたいですね。環境やコストに対して紙を使わなくなればよくなると皆思っているけれど、それはほかに提案がないから。そういう提案こそ、いまそれを担っている企業がやるべき仕事だと思っています。

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