レガシー(過去の遺産)に縛られた大企業ではイノベーションを起こしにくいのではないか? そんな疑問に、大企業の経営者はどう答えるか。イノベーション創出を長期ビジョンの柱に据えるセイコーエプソンの碓井稔社長に聞いた。

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日経ビジネスは、読者が自分の意見を自由に書き込めるオピニオン・プラットフォーム「日経ビジネスRaise(レイズ)」を立ち上げました。その中のコーナー「オープン編集会議」では、イノベーションに関する話題を皆さんとともに議論しています。ぜひ、ご参加ください。

<オープン編集会議>
Room No.01 日本のイノベーションは停滞している?
Room No.03 イノベーションを阻む「大企業病」、どう打ち破る?

「社会をよくする価値」がイノベーション

セイコーエプソン社長の碓井稔氏(写真:竹井俊晴)
セイコーエプソン社長の碓井稔氏(写真:竹井俊晴)

日経ビジネスRaiseのオープン編集会議では、Raiseユーザーの約7割の人が「日本のイノベーションは停滞している」と考えています。こうした意見を碓井さんはどう思いますか。

碓井稔氏(セイコーエプソン社長):ほかの国と比べればやっぱりちょっと停滞しているんじゃないでしょうか。停滞しているというか、相対的に日本のイノベーションの方がずっと規模感が小さいと思います。イノベーションが起きている領域にも、多少、そのように感じる原因があるのかもしれませんが。

 イノベーションとは、今までなかったような新しい価値をつくり上げていくことだと思います。ちょっとした価値というより、かなり大きな社会変革を起こすような新しい価値です。やはり、今までよりも便利になったり、豊かさを感じたりというような、「社会がよくなったな」という共感を得られるような新しい価値だと思います。

イノベーションというと、主にスタートアップが担うというイメージがあります。大企業にもイノベーションは起こせますか。

碓井氏:大企業でも起こせると思っています。むしろ、大きな組織力を持つ大企業でなければ起こせないイノベーションもあるというのが、私の考えです。例えば社会基盤を変えるようなイノベーションは、ベンチャーでは絶対に起こせません。

 ただ、既に成功している会社がイノベーションを起こすのは、スタートアップやベンチャーが起こすよりも大変です。今までやってきたビジネスがあるので、その延長線上で考えようとするのに加え、大企業になるほど競合企業があるからです。競合に勝つということが、企業の目標になりがちですよね。

 よりよい社会が実現できるような、新しい価値が生み出されることがイノベーションだと思いますが、大企業で同じ領域に競合がいると、「新しい社会を作ろう」ということとは関係ない、業界内での勝ち負けにこだわりやすい。志が、「業界で一番になる」ということになりがちなのです。それは「イノベーションを起こす」という志ではないですよね。

そうですね。

碓井氏:大企業発のイノベーションが大変なのは、自分たちの既存事業の構造がイノベーションに向いていなかったら、それを変えないといけないからです。それは何もないところから変えるよりすごく大変です。でも大企業だって大きな志を持とうと思えば持てるし、絶対に必要だと思う。そのためには原点に返らないといけない。

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