日本の基礎研究力の低下が叫ばれています。この風潮をどう見ていますか。

天野氏:私自身、「白書」を読むのが好きなんです。確かに白書を読むと日本からの論文数は減っています。ただ読み込んでいくと、大学からの論文数はそれほど変わっていません。企業からの論文が急激に減っているのです。私が学生のころは「応用物理学会」に出ても企業の発表が数も質も圧倒的でした。今、企業は技術をブラックボックス化して戦略的に論文発表を抑えています。なので一概に比較はできないでしょう。

 昔と今を比べて、昔のほうが技術の進化が早かったとも思いません。今のほうが早いですよ、確実に。でも発表はあまりしていない。肌感覚としても日本の研究レベルが落ちているは感じていませんよ。

 それは企業も同じです。企業の方と話す機会は多いですが、面白い技術の種はたくさんあります。少し話するだけでも、この技術とこの技術を組み合わせれば新しいビジネスが生まれると思うことは多々あります。

 ただ、なかなか企業の中で、面白い技術の種を生かして新たなビジネスを生み出すエネルギーが少ないのかもしれません。企業だってこうした課題に気づいています。

大企業を中心にイノベーション推進室を設置したり、オープンイノベーションに向けたコーポレート・ベンチャーキャピタルを設立したりしています。こうした動きをどう見ていますか。

天野氏:技術が高度化する中で、一企業の中ではやはり限界があります。もちろん、単純におしゃれなオフィスのような「箱」だけを作るのは危険です。大企業にも何かやらないといけないという危機感はありますよ。

そもそも大企業にはイノベーションを起こせるのでしょうか。

天野氏:大企業の方と話す機会は多いですが、一つひとつの技術は面白い。新しいビジネスを考えている人はいます。ただ実用化しようと思うとしがらみが邪魔をするのか、世に送り出せない、出せても最終的には魅力的にならないと悩んでいる方は多い印象を受けます。

 今の大企業に必要なのは、(社内外にある)シーズを集めて新しいビジネスを生み出せる人でしょう。我々もそういった人材を生み出していく必要があります。

イノベーション創出に向けて大学・企業などはどう役割分担すべきでしょうか。

天野氏:私が学生のころは、大学はシーズを作り出して、企業に提供すれば良かった。ですが、これからの大学はそれだけでは世界の流れの中で勝てないでしょう。

 産官学の成功事例としてはドイツのフラウンホーファー研究所が有名ですが、今からそれをマネしても意味はないでしょう。日本ならではの仕組みを作り出すべきです。大学で大量生産するのは難しいですが、基礎研究だけでなく実用化できるまでを示す必要がある。ゼロからイチを生むインベンションを超えることは大学でもできるはずです。

天野先生がセンター長を務める未来エレクトロニクス研究センターでは、具体的にどのようなことに取り組んでいますか。

天野氏:今まで大学の研究室が、単独で研究してきました。一つひとつの研究は面白いですが、俯瞰的に見ると上流から下流までがバラバラだったわけです。新しい材料を開発し、その材料で素子を作り、その素子を使って面白いシステムを作る。2015年秋からは、バラバラだった研究室を一体化して、一気にやろうとしています。企業も40社以上が参画してくれています。

 企業が求めているのは、「産官学ではなく産産産学」です。現在開発している半導体では、半導体メーカーだけでなく装置メーカーや使う立場のセットメーカーも参画しています。「仕組み」がないと企業同士は壁があってなかなか本音を話せない。でも、大学にあれば自由に話ができるので、そういう場を提供するのが重要だと考えています。大学が旗振り役になることでイノベーションを生みやすくなるとみています。

企業も大学に期待するものが多いのでしょうか。

天野氏:社会が成熟するなかで様々な課題を解決するには、乗り越えるべき技術のハードルは高い。基礎研究の必要性が高まっているとみています。

 日本では中央研究所を持つ企業は減っており、企業では長期視点での研究は難しい。もちろん、10年後や20年後を目指した研究を進める企業もいますが、そこは大学のほうが本気度は上ですよ。企業では主力事業ではないため予算が付きにくいですが、我々はそれが本業ですからね。

日経ビジネスRaiseのオープン編集会議では現在、イノベーションに関して2つのテーマで議論を進めています。ぜひ、ご参加ください。

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