リスクのとれない日本の40代

法政大学の米倉氏
法政大学の米倉氏

大竹:Raiseのオープン編集会議では、「大企業はイノベーションを起こせないのか?」といったことが議論されています

米倉氏:大企業でもイノベーションは起きるに決まっているでしょう。そもそも、こういう質問をすることが許されてしまうこと自体が、ダメですよ。大企業でもイノベーションは起きているんです。

 しかし、なぜそれが増えていかないのか、に課題があると思います。一つには、経営者が厳しい社外の視線にさらされていないからです。言い換えれば、リーダーが“上がり”のポストになってしまっていて、改革のインセンティブがわかないんですよ。本来は、必死になって新しい製品やサービスを世の中に送り出し、次の成長市場を取りに行かなければならないのですが、「つつがなく5年間過ごす」という意識になってしまっています。

 ある外資系企業から日本の大手電機メーカーに転職した方が「日本の中間管理職はリスクが取れない」と話していました。欧米の大企業に勤めるエリートは、年収で2000万円くらい稼ぎ、40歳手前くらいになると、一応の生活基盤はできあがるそうです。家のローンも終わり、子供の養育費のメドも立つから、そこからチャレンジしても失敗がそれほど怖くないのだとか。

 一方で日本の40代はどうでしょうか。住宅ローンを抱え、子供の養育費の心配もしないといけない。生活基盤ができていないから、リスクをとれないんです。

 大切なのは、「分からないことはやめておこう」というのではなく、「分からないことはやってみよう」というマインドセットです。

 「経営の神様」と呼ばれるパナソニック創業者の松下幸之助もそうでした。「俺は絶対コレだ!」と言い切れるということは、すごいことですよ。幸之助は、当時、業界全体で年に10万台足らずしか売れなかったアイロンを、価格を大幅に安くして自社だけで月に1万台売ろうとしました。朝、みんなワイシャツにアイロンを掛けたいはずなのに、なぜ売れていないのか、というところから発想し、いくらなら買ってくれるのか、とコストを逆算して大量生産をするための投資を決断したんです。時代を読み切って、大ヒットさせました。

 「これは絶対来る」と言い切れるクレイジーな人間にならないといけません。そして、企業はそういうクレイジーな人間に大きく報いる仕組みを作る必要があります。日本企業だったら、優れた発明やビジネスを起こした社員に、社長賞で金一封と記念品をあげて終わり。でも、それだけでは今の時代、いい人材はついてこないし、イノベーションは起こせないですよ。

 本日、日経ビジネスRaiseのオープン編集会議「日本のイノベーションは停滞している?」に、ゲストコメンテーターとして米倉教授が登場します。米倉教授に、記事への感想や疑問、イノベーションに関する質問を投げかけてみませんか?

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