歴代3社長の刑事責任追及は難しい――。
東芝の不正会計問題をめぐり、東京地検特捜部が証券取引等監視委員会に対して「事件化は困難」との見方を伝えていたことが、7月8日に分かった。日本経済新聞など複数のメディアが報じた。昨年発覚した不正会計問題が、一つの節目を迎えた。
だが本当に、これで幕引きして構わないのだろうか。
不正の背景にあった米原発子会社の赤字隠しをスクープした日経ビジネスは、その後も徹底取材を続行。新たな証言や内部資料を盛り込んだ書籍『東芝 粉飾の原点』を7月15日に上梓する。
(7月14日公開の前編から読む)
不適切会計ではない、「粉飾決算」だ
東芝は少なくとも2009年3月期から、7年間にわたり巨額の利益をかさ上げしてきた。累計額は2306億円にのぼる。オリンパスやカネボウが「粉飾」していた額と比べても、決して少ないとはいえない。2015年5月に発足した第三者委の調査によって、コーポレートガバナンス(企業統治)が骨抜きにされ、「チャレンジ」という名のパワーハラスメントが横行していたことも浮き彫りになった。
冷静に考えれば、東芝がやってきたことは「粉飾」だ。広辞苑(第6版)によると、粉飾決算は「企業会計で、会社の財政状態や経営成績を実際よりよく見せるために、貸借対照表や損益計算書の数字をごまかすこと」。東芝がしてきたことを表現するのに、これ以上適切な言葉は見当たらない。
にもかかわらず、多くの新聞やテレビは「不適切会計」という言葉で一連の問題を表現してきた。この言葉は、東芝の発表資料をそのまま使ったものだ。
東芝に自浄能力がないのは明白だった。2015年7月に引責辞任した歴代3社長は8月以降も会社に入ることを許され、クルマと個室を与えられていた。何の権限もないはずのOBが社内の人事に口を出し、不正に手を染めていた役員や社員に対しては生ぬるい処分でお茶を濁した。海外の投資家に「日本は企業の不正に甘い国だ」と思われることは、日本の国益を大きく損なう。それなのに規制当局は東芝の不正に切り込もうとしない。
東芝は2015年11月、会社に損害を与えたとして西田、佐々木、田中の歴代3社長と最高財務責任者だった村岡富美雄と久保誠の両元副社長の5人を東京地方裁判所に提訴した。金融庁による課徴金納付命令を受け、賠償請求額は32億円に引き上げられたが、当初東芝が請求したのは「回収可能性等も勘案した額」として5人合計でたった3億円だ。
長年にわたる粉飾は、東芝の事業構造を大きくゆがめた。2016年3月期の連結決算に、その「副作用」が鮮明に現れている。売上高は前の期比4460億円減の5兆6687億円で、営業損益は同8971億円悪化して7087億円の赤字になった。金融機関などを除く事業会社としては、過去最大の赤字である。最終赤字は4600億円となり、自己資本比率は6・1%という危機的な水準に落ち込んだ。
2016年6月23日、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が運用委託先を通じて、東芝を提訴していたことが分かった。不正会計による株価下落で受けた損害の賠償を求めている。東芝問題は、国民一人ひとりの年金問題でもあるのだ。
Powered by リゾーム?