東芝は2006年、約6000億円を投じてウエスチングハウスを買収した。買収当時の社長の西田厚聰や後任社長の佐々木則夫は、2015年度までに30基以上の原発新設を受注し、原子力事業の売上高を1兆円規模に伸ばすと公言していた。だが2011年の福島第1原子力発電所の事故以降、日本はもちろん、世界中で原子力ビジネスは冷え込んだ。

 にもかかわらず東芝は、決算会見やアナリスト説明会でウエスチングハウスの経営環境について疑念を指摘されても、頑として不調を認めてこなかった。仮に不調を認めると、東芝の連結決算で巨額の減損処理を迫られる恐れがあったからだ。数千億円規模の損失を計上すれば、赤字転落は必至だ。脆弱な財務基盤がさらに傷つき、経営危機に追い込まれる可能性すらあった。

 わずか5日前、11月7日に開かれた2015年4〜9月期の決算会見で、上席常務CFO(最高財務責任者)の平田政善はこう述べた。「サービスや燃料事業が着実で、福島第1原発事故以降は安全対策というビジネスが伸びている」。一方で平田は、ウエスチングハウスの売上高や利益の絶対額などは明らかにしなかった。このようにして東芝経営陣は、具体的な数字を示さないまま社会や投資家に対して偏った情報を発信してきた。

 11月12日にウェブサイトに記事を掲載した直後から、ニュースは瞬く間に広まっていった。フェイスブックやツイッターを通じて記事が拡散し、新聞やテレビといったメディアも一斉に後追いした。そして東芝は翌13日朝、1枚のプレスリリースを発信する。
 「当社の原子力事業に関する一部報道について」
 日経ビジネスが報じた事実をほぼ全面的に認めた上で、こう締めくくっていた。

 今後、本件に関わらず開示すべき事項を決定した場合には速やかにお知らせします。 WEC(注:東芝社内におけるウエスチングハウスの略称)に関する事項も含め可能な範囲で今後、積極的な情報開示に努めてまいります。(2015年11月13日付プレスリリース)

土俵際に追い込まれた東芝

 社会インフラから半導体、パソコンやテレビまで、ほぼ全ての事業領域で利益を水増ししてきた東芝。この不正会計が2015年4月に発覚して以降、同社を巡る環境は悪化の一途をたどってきた。

 5月に第三者委員会が設置されて本格的な調査が始まった。6月の定時株主総会を経て、7月には当時社長の田中久雄を含め、西田と佐々木の歴代3社長が不正会計の責任を取って辞任した。8月に室町正志を軸とする新経営陣が固まるも、決算発表を2度延期するという失態を演じてしまう。不正会計による利益のかさ上げ総額は7年間で2306億円に達し、多くの有価証券報告書を訂正した。新しい事実が判明するたびに株価は急変動し、投資家は翻弄され続けてきた。