東芝は7月6日、同社にとって初めてとなる「カンパニー別IR説明会」を開催した。機関投資家やアナリストに対して、4つの社内カンパニーの各社長が事業計画を説明し、業績目標を「コミット」した。
説明会は午後1時から5時30分まで、4時間以上も続いた。東芝の綱川智社長は冒頭で「情報開示の充実」が開催の目的だと述べ、年1回のペースで実施していく方針を掲げた。電機業界では日立製作所やパナソニックなどが、同様の取り組みを既に実施している。
改めて鮮明になったのは、東芝における原子力事業の重みが増していることだ。エネルギー部門を担当する「エネルギーシステムソリューション社」の社長に就任したダニー・ロデリック氏は、「原子力事業におけるシェアを守り続ける」と述べ、国内外で廃炉ビジネスを積極展開するとした。
米ウエスチングハウス(WH)の会長も兼務するロデリック氏は「WHが2015年度に過去最高益を更新した」と強調し、他社が建設した原子力発電所に対してもサービス・燃料事業を拡販することで、今後も利益を伸ばすと意気込んだ。原子力事業では2016年度に400億円の営業利益を見込むが、2018年度には670億円を稼ぐ計画を掲げている。
原発の新規受注に関しては今年6月、インドのモディ首相と米国のオバマ大統領が会談。WHがインド国内に6基の原発を新設することで基本合意した。この件についてロデリック氏は「2017年に最終契約する予定」だとした。
説明会ではさらに、英国でも3基を受注できる予想を明らかにした。トルコや中国でも受注活動を強化しているという。東芝は2030年までに45基以上の受注を目標としているが、WHは「もっとアグレッシブな計画を掲げている」(ロデリック氏)。
フラッシュメモリーが「成長ドライバー」
原子力と並ぶ注目事業が、NAND型フラッシュメモリーだ。東芝の綱川社長は「フラッシュメモリーを中心とするストレージが成長ドライバーになる」と説明会で発言。エネルギーや社会インフラは、フラッシュメモリーの業績変動リスクをカバーする安定収益基盤と位置づけた。
半導体を軸とする「ストレージ&デバイスソリューション社」社長の成毛康雄氏は「(中国メーカー製の)中華スマホでフラッシュメモリーの搭載容量が増えている」と指摘。需給バランスが好転し、売価の下落ペースが鈍化していると言う。
焦点は最新鋭の「3次元メモリー」がいつから収益に貢献するかだ。東芝は3年間で8600億円を投じ、量産を加速する計画を発表済み。「2017年度の後半には、64層の3次元メモリーをマジョリティーにしたい」と成毛氏は述べた。
価格下落が影響し、2016年度のフラッシュメモリー事業の営業利益率は1ケタ台に落ち込む見込み。成毛氏は「メモリーはボラティリティーが高い」と認めたうえで、「今後はデータセンター向けの需要が伸びるので利益率は回復する。10%が最低ラインだと考えている」と力を込めた。
今回のIR説明会は「資本市場への復帰」(綱川社長)に向けた下準備と位置づけられる。
東芝は2015年9月、内部管理に問題があるとして東京証券取引所から「特設注意市場銘柄」に指定された。東芝は今年9月をめどに内部管理体制確認書を提出し、日本取引所自主規制法人による審査を受けるとしている。審査後に指定解除されれば市場を通じた資金調達の道が開けるが、解除されなければ上場廃止になるリスクがある。
情報開示姿勢が改善したかどうかも、指定解除のポイントになりそうだ。東芝が初めてカンパニー別のIR説明会を開催した意義は、まさにここにあるのだろう。
7年間で2000億円以上の利益を水増ししていた東芝。巨額の不正が長期にわたって露見しなかったのはなぜなのか。何が歴代トップを隠蔽に駆り立てたのか――。
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【第1章】 不正の根源、パワハラ地獄
【第2章】 まやかしの第三者委員会
【第3章】 引き継がれた旧体制
【第4章】 社員が明かす不正の手口
【第5章】 原点はウエスチングハウス
【第6章】 減損を回避したトリック
【第7章】 歴代3社長提訴の欺瞞
【第8章】 「著しく不当」だった監査法人
【第9章】 迫る債務超過、激化するリストラ
【第10章】 視界不良の「新生」東芝
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