
慶應義塾大学経済学部卒業、慶応大学大学院商学研究科博士課程修了。1994年駿河台大学経済学部教授。96年米イリノイ州立大学客員研究員。2001年青山学院大学経営学部教授。05年より現職。
東芝が再び有報の提出を延期した裏には、米原子力事業で発生した損失の認識時期を巡って監査法人のPwCあらたとの対立がありました。東芝と監査法人の長期にわたる対立をどう見ますか。
八田:PwCあらたは2016年度から、前任の新日本監査法人の後を引き継いで東芝の監査を引き受けています。言うまでもないことですが、東芝はその前に長期にわたって粉飾決算を行い、新日本はそれで退任しています。そういう会社を引き受ける時に、PwCあらたはどういう形で引き受けたのかと思いますね。
監査法人が新規に監査を引き受ける時には、1年後には無限定適正意見を出すことの出来る会社だと信じて引き受けるのが普通です。「やってみないと分からないではないか」と言う人がいるかもしれませんが、それは違います。引き受ける際には、会社の内部統制や管理体制はどうなのか、ガバナンス(企業統治)は利いているのかといったことを予備調査し、大丈夫だという前提の元に受けるのです。
「この会社は、危ないから来年は不適正意見を出そう」という否定的な命題を持って引き受けることはありえません。その辺りはどうなっていたのかと思いますね。
監査難民を作ってはいけない
PwCあらたは、東芝の内部統制が出来ているかどうかを見極めて監査を引き受けているはずということですね。
八田:もし、予備調査の過程で何か疑問があったら、東芝の米元原発子会社、ウエスチングハウス(WH)にでも、すぐに自ら調べに行くべきです。そして、信頼性をしっかり確認した上で業務を遂行すべきだということです。
教科書的には、信頼性がない場合は経理指導や内部統制指導から行うということになる。もちろん、東芝は上場会社だから、それはしないでしょう。でも、東芝は粉飾という不祥事を起こした会社なのだから、そうしたリスクがあることを前提として受ける必要があるのです。
東芝はWHの巨額損失の認識時期を2016年10~12月期としていますが、PwCあらたは、WHの経営幹部による圧力が以前からあり、2015年末には損失を認識できたはずと見ています。
八田:減損の認識には主観的な部分があるし、そうした会計上の認識も限られた時間の中で行わなければならない。その時に入手できる情報で会社側(東芝)は合理的な判断をするということになります。それを、後の会計期間に出てきた情報などから後知恵的な発想で考えるのは無理があると思います。
それと、(PwCあらたが東芝は損失を認識できたのではとしている)2016年3月期は、新日本監査法人が担当していた時に粉飾決算で修正もしている。公にはそこで決着している決算期だとも言えます。
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