2つ目の理由は、東芝を真の意味で「新生」させる担い手がいないことだ。
米原発事業での巨額損失の責任を取り、原子力事業を長く率いた志賀重範氏が会長を辞任。ダニー・ロデリック氏は東芝の社内カンパニー社長を解任された。だが、両氏のみに責任があるとはとても言えない。
綱川社長は2015年9月の株主総会で取締役に選ばれ、2016年6月に社長に就任した。損失の原因となったCB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)の買収時には、経営陣として関わっていた。その後もWHを十分に統治しきれず、損失が膨れあがっていることに気付けなかった。
3月14日の記者会見で綱川社長は「会計問題や原子力の損失計上で困難と痛みを伴う改革が必要だ」と述べたが、東芝のある幹部は「(綱川社長に)求心力はまったくない」と打ち明ける。
「私の進退は指名委員会に任せている」と綱川社長は説明したが、その指名委員会も十分に機能しているとは言いがたい。指名委員会委員長を務める小林喜光氏(三菱ケミカルホールディングス会長)は昨年5月、志賀氏を会長として選んだ理由として次のように述べた。
「若干グレーだと思われているが、原子力という国策的な事業をやるうえで、余人をもって代えがたい」
原子力を重視してグレーな人物を選んだ判断が、東芝に何をもたらしたのか。結果は周知の通りだろう(志賀前会長がWH本社で語った東芝凋落の本質)。
「現行の監査委員会の役割ではない」
他の社外取締役も「無機能化」(内部統制に詳しい八田進二・青山学院大学教授)している。
監査委員会委員長の佐藤良二氏は14日の記者会見で、決算を2度にわたって延期したことについて「財務数値の監査に問題があったのではなく、内部統制に不備があったという特殊なケースだ」と繰り返した。内部統制を強化するのは、監査委員会の重要な仕事のはずだ。
WHが内部統制の問題を抱えていることは、佐藤氏が監査委員長に就任した2015年9月時点で明らかだった。日経ビジネスが減損隠しを指摘したのは、同年の11月である。筆者は同年12月7日の記者会見で「社外取締役や監査委員会が主体となって、WH問題を調べ直すつもりはあるか」と佐藤氏に質問した。第三者委員会が意図的にWHを調査対象から外し、問題が隠蔽されてきたと考えていたからだ(スクープ 東芝、室町社長にも送られた謀議メール)。佐藤氏はこのように返答した「それは、現行の監査委員会の役割ではないと思っている」。
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