一方で、発注元の電力会社は次第に神経を尖らせていった。建設コストの負担や納期の変更などで協議がまとまらず、原子炉などを供給するWHと土木工事を担当する米エンジニアリング会社シカゴ・ブリッジ・アンド・アイアン(CB&I)などとの間で、一部は訴訟に発展した。

 そうした状況で持ち込まれたのが、CB&I傘下のストーン・アンド・ウェブスター(S&W)の買収話だった。S&Wを買収し、WHが機器供給だけでなく土木工事や施工管理まで一括して担うことが、電力会社が訴訟を取り下げる条件になっていた。買収の事情をよく知る関係者によると「2015年7月に話があり、10月までに決断することを迫られた」という。

 当時の東芝にとって、最大の懸念事項は約3500億円に達するWHの「のれん」だった。電力会社との係争が深刻化してWHの収益計画の見直しが迫られれば、のれんの減損処理が現実味を帯びる。これを回避するため、WHはS&Wの子会社化を決めた(東芝、原発事業で陥った新たな泥沼)。

 訴訟を和解する引き替えに電力会社が求めたのが、前述の「固定価格契約」だった。原発が完成しない限り、WHは無限にコスト負担を求められる。そうして東芝とWHは先の見えない“底なし沼”に落ち込んでいったのだ。

2020年末に原発が完成しないと追加損失も

 東芝は2月14日、原子力事業を率いてきた志賀氏が会長を辞任し、ロデリック氏を東芝の社内カンパニー社長から解任すると発表した。今後は綱川智社長が指揮を執り、米原発の完成を目指すことになる。だが情勢は極めて厳しい。

 ロデリック氏は2016年5月、米ジョージア州の原発建設現場で日経ビジネスなどの取材に応じた。その際に示した建設進捗率は20~30%にとどまっていた。東芝によると2017年3月時点でも「進捗率は30%程度」(広報)という。「配管干渉などの問題は解消に向かっている」(東芝幹部)との声もあるが、1年近く工事が足踏みしている格好だ。

 WHは2月以降、米電力会社に対して数カ月の工期延長を申請している。VCサマー2号機は2020年4月、同3号機は2020年12月に完成する見込みだという。WHはこれまで工期の延長を申請して認められてきたが、これが最後の機会となりそうだ。

 米政府は2005年の「包括エネルギー法」で、電力会社に対する融資保証などの優遇措置を定めた。その中に、2020年末までに運転開始した原発については、一定の税金を控除するとの規定がある。海外電力調査会の試算では、「WHが建設するAP1000型の場合、1基当たり最大で11億ドル(約1250億円)の税金が控除される」という。工事の遅れが原因で税制優遇が受けられなかった場合、電力会社が東芝とWHに損害賠償を求める可能性が出てくる。東芝は本件について「電力会社側の事情なのでコメントできない」(広報)としている。

 想定通りに建設工事が進まなかった場合、WHは「固定価格契約」によってコスト超過分を負担する必要がある。さらに税制優遇関連の賠償を求められると、追加の損失額は数千億円規模に膨れあがる恐れがある。

 WHが破産法の適用を申請して認められれば、こうした複雑な契約や将来の債務を整理できる可能性がある。金融機関や米政府などとの調整が必要になるため実際に申請できるかは不透明だが、リスクを限定するには最善の方法だろう。法的整理を通じてWHが身軽になれば、新たな支援先が登場することも期待できる。このままの体制でずるずると建設工事を進めるだけでは、再生への道筋は描けない。

 麻生太郎財務大臣は3月10日の閣議後記者会見で、WHの破産法に関して「(3月)31日までに決まらないと(損失が確定できず)東芝も決算を出しにくい」と述べた。WHは東芝の経営問題にとどまらず、日米の政治問題にもなりつつある。

 米原子力事業の巨額損失、大黒柱のフラッシュメモリー事業の“売却”……。かつての名門企業はなぜ、崩壊の危機に瀕してしまったのでしょうか。

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【第1章】 不正の根源、パワハラ地獄
【第2章】 まやかしの第三者委員会
【第3章】 引き継がれた旧体制
【第4章】 社員が明かす不正の手口
【第5章】 原点はウエスチングハウス
【第6章】 減損を回避したトリック
【第7章】 歴代3社長提訴の欺瞞
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