深刻なのは原子炉の冷却機構や格納容器のような、安全に直結する機器で配管干渉などが発覚した場合だ。「配管の長さが1メートル伸びるだけで冷却能力は変わってくる。重要な機器の配置や設計を変える場合はNRCに申し出て、安全性に問題が無いことを認めてもらう必要がある」(米国の規制に詳しい専門家)。

 配管の設置場所を変更すると、機器や構造物の「重心」が以前とは異なってくる。レイアウト変更に伴って新しい鉄筋で補強したら、別の鉄筋と干渉してしまうこともある。こうして一つの部品の設計変更に伴い、複雑な構造計算をやり直すケースが頻発した。過去に据え付けた部品や機器についても、遡って配管や鉄筋の構造を見直すこともあったという。現場では「工事は無限に続き、いつまでも完成しないのではないか」(東芝幹部)との声が聞かれるようになった。

 着工してから既に4年が経過したが、現時点で完了したのは3割程度。建設工事が本格化するのはむしろこれからで、今後も想定外の設計問題が発生するリスクは無視できない。記事の冒頭で「損失は7000億円では済まない」と東芝関係者が懸念したのは、今なお工事の行く末が見通せないからだ。

 なおWHは日経ビジネスの取材に対し、工事が遅れているのは「航空機衝突などに備えた設計変更や許認可の遅れが原因だ」とコメントした。建築図面などの詳細設計が理由ではないとしている。

東芝はテコ入れに動いたが・・・WHが受け入れず

 ただし建設工事におけるコスト超過の問題は、東芝の原子力部門では4年前から周知の事実だった。2013年にWHが単体赤字に転落したことからも明らかだ。だが、東芝経営陣はこの問題にメスを入れられなかった。「半ば独立国のように振る舞うWHを、東京の本社が制御できなかった」(東芝幹部)からだ。

 決して無策だったわけではない。「2013年から14年にかけて、電力システム社の首脳が旗振り役となり、スーパーゼネコンの技術者など100人規模のチームをWHに送り込む計画があった」と、原子力部門の元幹部は振り返る。日本国内では東日本大震災までは各地で原発建設が続けられており、設計や施工に精通した人材が米国に比べて豊富にいる。こうしたプロの力を借りようとしたわけだ。

 ところが計画は上手くいかなかった。「WHは東芝の介入を嫌がり、都合の悪い人材を片っ端から断ってしまった。結局、派遣できたのは10人程度だった」(原子力部門の元幹部)。さらに「日本と米国では工事のやり方が異なると主張し、改善提案が聞き入られることはなかった」(同)という。

 2015年に入ると粉飾決算が発覚。同年7月には歴代3社長を含めて経営陣が一斉退陣し、東芝本体の経営が混乱した。そのため、WHを制御するのはますます困難になっていった。

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