東芝は2006年、約6000億円を投じてWHを買収した。狙いの1つは、WHが開発していた「AP1000」という原子炉を手中に収めることだった。東芝はBWR(沸騰水型軽水炉)方式の原子炉を手掛けていたが、海外ではPWR(加圧水型軽水炉)方式が主流。世界市場に打って出るため、PWRの最新機種であるAP1000が是が非でも欲しかったのだ。

 AP1000は当時、「画期的な原子炉」(日本エネルギー経済研究所原子力グループの村上朋子・研究主幹)との評価を受けていた。蒸気発生器やポンプの数を大幅に減らしたことで構造を簡素化しつつ、独自の安全対策も取り入れた。WHは「AP600」という60万キロワット級の原子炉を開発していたが、AP1000なら同等の設置面積で100万キロワット超まで出力を高められるのが特徴だった。

 原発の建設コストはある程度、コンクリートや配管といった資材の物量に比例する。狭い場所で建設可能なAP1000を採用すれば、全体のコスト削減につながると考えられていた。

 WHは2008年、米国で4基の原発建設を相次いで受注した。サウスカロライナ州の「VCサマー2/3号機」とジョージア州の「ボーグル3/4号機」だ。いずれもAP1000が採用された。

航空機衝突に備えた設計変更など、厳しく審査

 だがすぐには着工できなかった。米原子力規制委員会(NRC)が、AP1000の安全性などを厳しく審査したからだ。航空機の衝突対策など複数の設計変更が求められ、許認可審査もやり直しとなった。

 結果、WHが提出した「設計認証図書 (Design Control Document)」をNRCが承認したのは2011年。その後、建設運転一括許可を得て、原発の建屋建設に着手したのは2013年のことだった。

WHが2011年に提出した「設計認証図書 (Design Control Document)」
WHが2011年に提出した「設計認証図書 (Design Control Document)」

 ところが、建設はすぐに壁にぶち当たる。2013年7月28日、WHのCFO(最高財務責任者)を務めていた「T」は、同社のダニー・ロデリック社長兼CEO(最高経営責任者)や志賀重範会長ら約40人に宛てて「週報」をメールで送った。日経ビジネスが入手した電子メール記録によると、週報は英語と日本語で書かれている。

件名:WEC CFO Weekly Report (July22-July26)

 2012年度監査がようやく終了し、監査報告書へのサインが7月23日に完了しました。のれんの減損については最終的にNPP(新規建設)で▲6億7600万ドル、NA(オートメーション)で▲2億4900万ドル、合計▲9億2600万ドルと巨額の減損を認識することになり、誠に申し訳ありませんでした。

 WHには当時4つの事業部門があり、AP1000向けの機器製造やエンジニアリングを担当する「新規建設」が不調に陥ったと「T」は分析した。その結果、2012年度の単体決算で約762億円の減損処理を実施し、WHは赤字に転落した。2013年度も状況は好転せず、約394億円の減損を計上している(スクープ 東芝、米原発赤字も隠蔽)。

次ページ 配管と鉄筋が入り組んだ「スパゲッティ」