東芝が原発から撤退できない理由
東芝は2月14日に2017年3月期の業績見通しを明らかにし、原子力事業が6995億円の営業赤字に陥る可能性を示した(注:数字は監査法人のレビューを受けていない)。2014年3月期から4期連続の赤字となり、累計で約1兆円の損失を計上することになりそうだ。
にもかかわらず、東芝は原発ビジネスから撤退するそぶりを見せない。土木建築やEPC契約を控えてリスクを低減する方針だが、燃料とサービス事業には収益性があるとの立場を堅持している。むしろ原発の損失を穴埋めするために、“大黒柱”である半導体事業の完全売却すら検討し始めている。
黒字事業を売却して赤字事業を継続する。なぜ東芝は原発に関して、非合理的な経営を続けるのか。その理由の一端が、2月14日の記者会見で東芝が配付した資料に掲載されている。WHに対する「債務保証」である。東芝はWHの親会社として、7934億円の債務を保証している(2016年3月末時点)。その90%弱が、スキャナ電力など米国での原発建設の客先に対する支払い保証だ。
資料には次のように書かれている。「米国AP1000プロジェクト(注:4基の建設計画)において、WHの客先への支払義務(プロジェクトを完工できなかった場合の損害賠償請求を含む)を履行できなかった場合、当社はWHの親会社として、客先にこれを支払うことが要求されている」。巨額減損によって財務基盤が極めて脆弱になった東芝にとって、原発の完工を諦めるという選択肢は存在しない。
東芝は現在、WH株の87%を保有している。綱川社長は「興味のあるパートナーがいれば一緒にやっていきたい。出資比率は引き下げることを考えている」と話す。だが、これだけ巨額の債務保証を認識したうえで、出資に応じる企業があるかは不透明だ。安全保障の観点からも、WH株を売却できる相手は限られる。
WHという爆弾を抱えて、東芝は立ち往生しているように見える。2月14日の記者会見で「WH買収は正しい経営判断だったか」と問われた綱川社長は、力の無い声でこう述べた。
「数字を見ると正しいとは言いにくい」
米原子力事業の巨額損失、大黒柱のフラッシュメモリー事業の“売却”……。かつての名門企業はなぜ、崩壊の危機に瀕してしまったのでしょうか。
勇気ある社員の証言や膨大な内部資料を基に、東芝が抱える“闇”に切り込んだ『東芝 粉飾の原点』。東芝の現状を理解するのに必須の一冊です。

≪書籍の主な内容≫
【序章】 こじ開けたパンドラの箱
【第1章】 不正の根源、パワハラ地獄
【第2章】 まやかしの第三者委員会
【第3章】 引き継がれた旧体制
【第4章】 社員が明かす不正の手口
【第5章】 原点はウエスチングハウス
【第6章】 減損を回避したトリック
【第7章】 歴代3社長提訴の欺瞞
【第8章】 「著しく不当」だった監査法人
【第9章】 迫る債務超過、激化するリストラ
【第10章】 視界不良の「新生」東芝
東芝、三菱自動車、東洋ゴム…
企業の不正事件が後を絶ちません。ひとたび不祥事が発覚すれば、社長が謝罪し、お飾りの再発防止策が発表され、事件は幕を閉じようとします。ただ、それで問題は解決したのでしょうか。
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