一方でEPCにはリスクがある。建設工事などでコスト超過に陥ると、際限なく資金が流出しかねないからだ。実際に米国の原発建設プロジェクトでは、2015年末の買収時点でコスト超過に苦しんでいた。だが東芝はそのリスクに目をつぶった。「日本で培ったノウハウを注入すれば、WHとS&Wを立て直せると過信していた」(前出の原子力部門元幹部)。

東芝の原子力事業を統括してきた志賀重範氏(中央、奥は前社長の室町正志氏)。志賀氏は巨額損失の責任を取るため、2月15日付で会長を辞任した(写真:的野 弘路、撮影は2016年3月)
東芝の原子力事業を統括してきた志賀重範氏(中央、奥は前社長の室町正志氏)。志賀氏は巨額損失の責任を取るため、2月15日付で会長を辞任した(写真:的野 弘路、撮影は2016年3月)

 米国ではスリーマイル島事故の後、原発新設が約30年にわたって途絶えていた。それに対して日本では、福島第1原発の事故が起きるまでは各地で原発建設が続けられてきた。別の原子力関係者はこう断言する。「東芝が本気になればコストを大幅に削減できると思い上がっていた」。電力会社がコストの上限を設定しても、その範囲内で原発を完工できれば損失は出ないと考えていたという。

 原発ビジネスで利益を稼げるのは、運転開始後に手掛ける燃料供給やメンテナンス事業だ。建設過程で多少赤字になっても、完工さえしてしまえばすぐに取り返せるとの意見もあった。

「世界一の原発会社」を統治できなかった

 ところが、東芝の目論見通りにはいかなかった。「WHの従業員は自分たちが世界一の原発会社だとのプライドを持っており、日本から来た技術者の言うことなど聞かなかった」(関係者)からだ。WHの現場だけでなく経営陣も、「本社の命令を半ば無視して独立国のように振る舞っていた」という証言もある。

 その結果、買収時に想定したようなコスト削減効果は得られなかった。2月14日に記者会見した東芝の綱川社長は「S&Wを買収したときに、彼らと一緒にやっていけばもっと(工事作業の)効率が上がるだろうと考えていた。30%改善しようとしてやってきたが、できなかった」と述べた。

 「焦って」買収したため、東芝とWHはS&Wが抱えるリスクを十分に精査できなかった。2016年に入って検証したところ、「買収時に認識されていなかったコストを見積もる必要性が認識された」(綱川社長)。

 さらに、コスト削減ができると「思い上がって」いたことも裏目に出た。東芝は2015年末にS&Wを買収して契約を見直した時、電力会社との間で決めた建設費用をクリアできると考えていた。しかし、想定通りに効率化が進まずに目論見が狂い、コストのコントロールに苦しんでいる。

 この2つが主な要因となり、4基の原発完工までにかかるコストの見積もりが想定から61億ドル増加。原子力事業全体で7125億円の減損損失を計上する事態になった。

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