WHが4基の原発建設を受注したのは2008年。米国内で約30年ぶりとなる新規建設プロジェクトだったが、受注直後から米当局の規制強化に苦しめられることになる。航空機の衝突対策などの設計変更が相次ぎ、許認可審査もやり直しとなった。これを受け、原発の建設コストが見積もりから次第に乖離するようになっていった。2011年以降は、原発を発注した電力会社とWH、そして土木工事を手掛ける建設会社との間で訴訟が発生するようになった。
東芝を追い立てた「焦り」
東芝とWHはこの訴訟を何としても解決する必要があった。電力会社から損害賠償請求を受けると、WHの収益計画の見直しが迫られるだけでなく、原発ビジネス自体の将来性にも傷が付く。そうなると、東芝が連結決算で計上していたWHの「のれん」、約3500億円の減損処理が現実味を帯びる。粉飾決算に手を染めるほど財務が劣化していた東芝にとっては、絶対に避けたい事態だった。

そうした「焦り」から、東芝とWHはある解決策に打って出た。建設工事を手掛けていた米CB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)を傘下に収めることで、入り組んだ関係を整理することにしたのだ。訴訟の和解や納期の延長を認める条件として、電力会社がS&Wの子会社化を求めていたからだ。
2015年12月末、WHはS&Wを「0ドル」で買収して電力会社などと和解。土木建設を含めてWHが責任を持つ一方で、4基の原発の完工期日の延期と、契約金額の増額を認めさせた。この過程で、冒頭の「固定価格オプション」が盛り込まれたとみられる。東芝関係者は「もしS&Wを買収しなければ、東芝は2015年中にWHののれん減損に追い込まれていたかもしれない」と振り返る。
東芝とWHも、実はS&Wのような建設会社を求めていた。WHは原子炉などの機器製造に強みを持つが、原発建設プロジェクトで大きなカネが動くのはエンジニアリングなどの領域だ。そうした「おいしい部分は米ベクテルなどに持っていかれてしまい、悔しい思いをしていた」(東芝の原子力関係者)。「設計・調達・建設」を意味する「EPC」を手掛ければ原発ビジネスをさらに成長させられると、東芝社内では以前から検討されていた。
買収の事情をよく知る関係者によると、WHのダニー・ロデリック社長(当時)がS&Wの子会社化を積極的に提案し、原子力を所管する東芝の志賀重範副社長(同)が後押ししたという。この関係者は「資産査定の時間は限られていたが、減損を回避するためには決断せざるを得なかった」と打ち明ける。
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