マスの市場ではなく、ディープでスモールな市場を狙う。こんなVチューバーという職業が成立するようになった背景に、個人と個人を繋げるCtoC(個人間取引)の仕組みがある。動画配信者は、これまでの広告による収入だけでなく、昨年からユーチューブが始めた「スーパーチャット」のような“投げ銭”で、視聴者から直接収入を得られるようになったのだ。

 投げ銭とは、視聴者がお金を配信者に送ることで、自身が書き込むコメントを目立たせることなどができる機能だ。投じる額が大きいほど、よりコメントの見栄えが良くなる。熱心なファンほど多額を投じ、自身の存在を配信者にアピールする。配信数が少なくても、単価で稼ぐことができるシステムというわけだ。

 投げ銭は特にライブ配信と相性が良い。投じたコメントに対して配信者が当意即妙に応じることが、ファンが投げ銭を投じるインセンティブになるからだ。冒頭のRAGEでも、ステージの様子をライブ配信し、Vチューバーは投げ銭を獲得していた。

趣味の副業が本業を超える

 ライブ配信を利用したEC(電子商取引)「ライブコマース」も、CtoC市場を盛り上げることに一役買っている。愛知県弥富市に住む武藤久由さんは、個人が手軽にライブコマースに取り組めるプラットフォーム「BASE」を通じて、趣味で創作していた漆器の販売を始めた。本業は仏壇の漆塗りだが「副業の収入が本業を上回りそうな勢い」という。

 大学卒業後、仏壇職人だった父に弟子入りし、漆塗りの技術を学んだ。漆の艶や色合いに魅了され、暇を見つけては石や紙、果てはぶどうを食べた後に残る軸にまで漆を塗り始めた。そして、漆が密着しないプラスチックのコップなどの上に何重にも漆を塗り重ね、後から型を壊して外すことで、漆だけで器を作る独自の技法を開発。特許も取得し、「thin」という商品名で販売を始めた。

 当初はフリーマーケットなどに作品を出品していたが「出品時期が決まっていると、締め切りに追われて義務感でものづくりをするようになってしまう」と不満が募っていった。そこで一昨年から始めたのが、個人で自由に販売ができるBASEだ。

漆だけで作る器「thin」を手に持つ武藤さん。型のコップを潰すことで、独自の形状を実現する(写真:早川俊昭)

 BASEのライブ配信では、主に制作の様子を流す。「喋るのは苦手だけれど、自分の手業を見せることは好き。漆だけで作った器の独特の軽さやしなやかさを伝えるよう努力している」という。配信が終わった後には、漆器に注いだビールを飲みつつ、コメントを読んで一人で反省会をする。

 thinの価格は1~3万円程度と高い。しかし、漆に興味を持ったコアなファンがついている。独自の技術は次第に注目を浴び、いまでは百貨店の催事などにも出品。海外アーティストとのコラボも実現した。「CtoCのポイントは、作る人と売る人が同じということだと思う。作った人の思いをそのままダイレクトに消費者に伝えられる面白さがある。作品への思いが深いほど、少なくても深いファン同士のつながりが生まれる」と武藤さんは語る。