ホワイトハットハッカー、データサイエンティスト、人工肉クリエーター、サイボーグ技術者、eスポーツプレーヤー。日経ビジネス7月2日号の特集「2025年稼げる新職業」では、今後需要が急増すると予想される、新世代の花形職業を紹介した。多くの新職業が生まれている背景にあるのが、AI(人工知能)に代表されるデジタルディスラプション(デジタル技術による既存秩序の崩壊)、少子高齢化などの社会課題、そしてCtoC(個人間取引)市場の勃興だ。

新世代の稼げる職業とは(写真:KTSDESIGN/Getty Images)
新世代の稼げる職業とは(写真:KTSDESIGN/Getty Images)

 安定した業績で、平均年収1000万円クラスの年収を提供する会社に、定年まで勤め上げる。「こんな『日本型サラリーマンの理想像』は崩れ始めている」。ヘッドハンティングを手掛けるエゴンゼンダー(東京・千代田)の佃秀昭パートナーは指摘する。

 みずほフィナンシャルグループは2026年度までに1万9000人を削減するリストラ策を発表。トヨタ自動車の豊田章男社長も、近年の入社式で「安定した会社に就職をして自分の将来は安泰などと思わないでください」と警句を発している。

 こうした企業が警戒感を抱いているのが、ライドシェアの米ウーバーテクノロジーズや民泊仲介の米エアビーアンドビーなど、デジタルディスラプションを担う企業だ。「デジタル技術を駆使すれば、既存産業のほとんどに参入余地がある」。そう話すのは、日本のディスラプター、バンク(東京・渋谷)の光本勇介CEO(最高経営責任者)だ。

 同社はスマートフォンで撮影するだけで中古品を換金できるアプリ「CASH」で中古買取市場に、後払いで旅行ができるアプリ「TRAVEL Now」で旅行業にも参入した。こうした新サービスの登場は少なからず既存産業の利益を奪い、ひいては給与水準を押し下げる。

 佃氏は「従来型の職業が完全になくなるわけではない。しかし、その給与が徐々に縮小していくことを、今の若者は認識しなければならない」と佃氏は語る。「10年後にはホワイトハットハッカーやCDO(チーフ・デジタル・オフィサー=最高デジタル責任者)などデジタルディスラプションに絡む職業が圧倒的な高給を得て、人気職業の上位を独占するのではないか」

「勝ち組でなくても負けにはならない」

 現在でもAIの研究者は上位300位で50万ドル(約5500万円)もの高年収を得ているが、トップ30ともなれば数百万ドル、トップ5で数千万ドルに達すると言われる。「新世代の職業は、これまでのリニア(直線的)に伸びる給与体系ではなく、エクスポネンシャル(指数関数的)に収入を伸ばす。より生存競争の激しい職業だ」(佃氏)

 佃氏は「厳しい競争に怯まず、20代は金鉱脈に突っ走れ」と発破をかける。能力主義の新職業でたとえ勝ち組になれなくても、負け組になるとも限らないからだ。「ゴールドラッシュで財を築いたのは、金を掘り当てた勝ち組よりもその周辺産業だった」。鉱夫向けの丈夫な作業着としてジーンズを開発した米リーバイ・ストラウスがその典型だ。

 つまり、一芸に秀でた新時代の「鉱夫」としてトップになれなくても、既存産業との橋渡しをする周辺者などとして、高収入を得られる可能性がある。例えば、SNSのインフルエンサー(影響力のある投稿者)らと連携して企業の広報活動を実践する「ソーシャルメディアプランナー」が既に登場している。

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