大企業のスタートアップ投資はまるで「衝動買い」

実際、大企業がスタートアップへの投資や協業を考える際、どのような点に注意すべきでしょうか。

:一言でいえば、全体像を描いてから投資すべきだと思います。海外では一般に、自社のビジネスの方向性やバリュー・チェーン(価値連鎖)を見通し全体像を描いたうえで、足りないパズルのピースを探すような形で投資先のスタートアップを探します。それゆえ、海外では信じられない額の赤字をたたき出しているベンチャーであっても、それを自社のパズルに組み込んで全体で黒字化が見込まれれば投資することもあります。

 一方、日本では、大企業によるスタートアップへの投資の現状は、「ウィンドー・ショッピング」に例えられると思います。つまり、衝動買いしたはいいものの、帰宅して持っている服と並べてみると、イマイチうまく合わない。そうではなく、最初から自宅にある服を一度並べてみて、足りないものを買いに行けば、ピンポイントで探せるし、買った後で「当てが外れた」ということも少ないはずです。社内調整も進めやすく、買う・買わないの意思決定も早くなります。

なるほど。確かに目的もなく、手当たり次第につまみ食いしてしまっては、うまく行くはずがありませんね。

:大企業の経営者には一般的に3つの役割が必要だと思います。1つ目は、既存事業の運営者・管理者。2つ目は、新しい事業の可能性を作り上げるアントレプレナー(起業家)もしくはイントレプレナー(社内起業家)、そして3つ目は、複数事業をうまく回すポートフォリオマネジャー、の役割です。この3つは、経営者にとってはいわば「読み書きそろばん」でしょう。

 ただ、日本の経営者は(1)と(2)の経験があっても(3)の経験がない人が多いように感じます。最近、日本企業でM&A(合併・買収)の失敗が続いているのも、そのためかもしれません。(1)~(3)をバランス良く身に付け、状況に応じて頭を切り替える必要があるでしょう。

 繰り返しになりますが、時間軸とバリューチェーンでロードマップを展開し、大きな絵を描いてから取り組むべきです。スタートアップ投資の目的を明確にすることは大前提。本業とは全く異なる新しい事業をやりたいのか、世の中にある面白いものをインプットしたいのか、財務的なリターンが欲しいのか。複数の目的があったとしても、優先順位を付けるべきでしょう。スタートアップ側にとっても、投資を持ちかけられた時に、大企業の本業の全体像と自分たちの位置付けが分かった方が魅力を感じると思います。