
日経ビジネス7月3日号では「失敗しないスタートアップ 協業する大企業へ10の心得」と題し特集を企画した。今、あらゆる大企業がスタートアップとの協業に乗り出している。ジャパンベンチャーリサーチによると国内のスタートアップの資金調達額は2010年に比べ約3倍に増加し、16年に2000億円を超えた。“スタートアップ協業バブル”ともいえる活況ぶりだが、安易な出資や事業提携は成果に結びつかないばかりか、スタートアップの成長の芽を摘みかねない。大企業向けの新規事業開発や起業家育成に携わっているミレニアムパートナーズ(東京都港区)代表取締役の秦充洋氏に、大企業のスタートアップ協業の要諦について聞いた。
最近、大企業によるコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)の設立が相次いでいます。背景にはどのような要因があるとお考えですか。

ミレニアムパートナーズ(東京都港区)代表取締役。1992年、一橋大学商学部卒業後、ボストンコンサルティンググループ(BCG)東京事務所に入社。国内外の大企業を対象に既存事業の見直しや新規事業戦略策定などに携わる。医療従事者に医療情報を提供する会社の共同創業やネットベンチャー社長などを経て、06年ミレニアムパートナーズを設立。大企業を中心に新規事業開発のワークショップや次世代リーダー育成、スタートアップ向けファンド運営などを手掛ける。
秦充洋(ミレニアムパートナーズ代表取締役、以下、秦):一つのきっかけとなっているのは、米国でウーバーテクノロジーズやエアビーアンドビーといった業界のパラダイム転換を起こすようなインパクトを持つベンチャーが急成長し、目立つようになってきたことでしょう。これまでにも国内でディー・エヌ・エー(DeNA)やグリー、楽天といったITベンチャーが登場し、バブルのような時期はありましたが、当時、多くの大企業は「関係ない」と高をくくっていました。けれど気付いた頃には波に乗り遅れていたのです。今のスタートアップへの関心の高さは、そのときの反省もあるのだと思います。
加えて、大企業自身が何らかの形で、新規事業を創出しなければならないと考えるようになったことも影響しています。そもそも日本で大企業といっても、時価総額は海外のスタートアップ並みのところが多いのが実状です。時価総額1000億円超の未上場のスタートアップを「ユニコーン」と呼びますが、世界的には米国を中心に150社以上のユニコーンが存在するとされる一方、東証一部上場企業の中で時価総額1000億円超の企業は3分の1程度しかありません。
大企業のスタートアップ投資で陥りがちな落とし穴はどのようなものでしょうか。
秦:まず、投資や新規事業の経験や知識を持つ人がCVCの担当になるわけではなく、スタートアップとの板挟みになって困っているケースが少なくないように思います。また、「どうせ投資するならコントロールしたい」「スタートアップが持つ技術を独占的に使用したい」という大企業の思惑と、条件や契約期間を交渉したいというスタートアップ側の主張がかみ合わず、大企業にとってスタートアップが扱いにくい人たちに映ってしまう現状もあるようです。
ひどい場合は、大企業内の既存事業がスタートアップとの新規事業を余計な仕事と見て、横やりを入れてくることもあるようです。そうした状況は、大企業とスタートアップの両者にとってハッピーではありません。だからこそ、スタートアップとの協業による新規事業を社内で進めていく際は、既存事業との間に仕切りを設けて、守ってあげる必要があるでしょうね。既存事業とのシナジーは、最初から生まれるわけではありませんから。ある程度育ててから合体させなければ、既存事業に食われて枯れてしまいかねません。
それから、成果が出る前に人を頻繁に入れ替えたり、投資額をがくんと減らしたりすると、うまくいかないし信用も得られなくなってしまいます。スタートアップ投資は、製造業の研究開発部門と同じようなもの。成果が出るまでに時間もかかるしノウハウの蓄積も必要です。
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