日本に足りない「宝の種を育て上げる力」を、比較的持つ企業はいないのだろうか。取材を進める中で1つ行き着いたのが、創業家などが歴代の経営トップを担う「同族企業」だ。「同族企業は創業時の経営理念を大切に守り続けていることが多い。トップが中長期の視点で経営するため、時間がかかる研究開発にも理解を示しやすい」。元・大手電機メーカーの技術者はこう話す。
 今回の取材で、同族企業ではカシオ計算機と、文具メーカーのサクラクレパス(大阪市)を訪れる機会に恵まれた。2社を例に、その魅力に迫ってみたい。

カシオ計算機は1970年代から多機能デジタル時計を開発・販売していた(写真:都築 雅人)

現場発のアイデアをまず褒める

 まずはカシオ。樫尾忠雄氏が1946年に部品加工会社の樫尾製作所を設立。同社に俊雄氏、和雄氏、幸雄氏の3人の弟が加わり、電気計算機やレジスター、デジタルカメラなど次々と新製品を開発してきた。
 最も注目を集めたのが、1974年発売の「カシオトロン」に始まる多機能デジタル時計だろう。カシオトロンはオートカレンダー機能を世界で初めて搭載。その後、計算や英和・和英辞書、温度や気圧・高度測定、脈拍測定、ゲームなど様々な機能付き時計を開発した。米アップルが2015年に発売した「アップルウオッチ」がヒット商品になったが、カシオはその40年以上も前に、似た概念の製品を既に開発していた。
 時計事業担当の増田裕一専務執行役員は「ユニークな発想は将来の需要につながるとみなして、大切にする文化がある」と話す。現場発のアイデアをまず褒めて、実用化できないかを探るわけだ。カシオでは新製品を売り出す際、技術者も出向いて消費者の反応を直接見ることを心がけているという。
 カシオは時計事業を伸ばすために2004年、高機能アナログ時計の開発へと舵を切った。電波とGPS(全地球測位システム)を組み合わせて、世界中で正確な時刻を表示できる時計などを売り出し、同事業の売上高を従来の2倍以上に増やすことに成功した。
 カシオは昨年、4兄弟の1人の和雄氏から長男の和宏氏へと、27年ぶりに社長を交代した。和宏氏は創業家4代目の社長。同社の経営モットー「創造 貢献」(斬新な働きを持った製品を提供し、社会貢献する)は新体制でも強く根付いているようだ。