人件費を計算するだけで恐ろしくなった……

 彼らはお客様がまだ数人の状態で、50人以上のスタッフを雇用しました。この人員は顧客満足のために絶対必要であると言いました。任せるといった以上何も言えません。私は彼らの話を聞きながら、頭の中で1人の給料をいくらとして、55人では給料の支払い総額がいくらになるかを計算したら、恐ろしくなりました。ですが「賽は投げられた」のです。もう後戻りは許されません。

 開業は2015年9月でしたが、私は大々的に宣伝をするのを禁じました。お金がかかるということもその理由ですが、ハードはお金をかければ整えられますが、ソフト作りはそう簡単にはいきません。このくらいのことはホテル経営の素人の私でもわかります。だからソフトが確立するまでは宣伝は控えるように指示したのです。同時に、最初の10日間は顧客をとらず(もっとも顧客はいませんでしたが…)、まずはホテル関係者に宿泊させ、問題点や改善すべき点をチェックしました。そして10月から実質的な営業を始めたのです。

最初の日は宿泊客が1人だけ、2日目は3人

 最初の日は宿泊客が1人だけ。2日目には3人のみ。しばらくしてようやく10 人程度に増えましたが、損益分岐点を突破するにはほど遠い状況です。インドでは給料は安いのですが、それでも人件費だけで毎月120万ルピー(240万円)かかるのです。電気代など50万ルピー以上のコストもかかります。収入の25%は賃料としてオーナーに支払わなくてはなりません。初月の10月は150万ルピー(300万円)の赤字で、K君と150万円ずつ負担しました。11月には1日15人程度のお客様にお泊りいただきましたが、営業コストが増加したので、大幅赤字となってしまいました。

 もっとも、赤字になることは想定していました。だからオーナーからは10年契約の申し出もありましたが、2016年3月までの仮契約にしました。インド人の友人からお金を工面することは可能でしたが、借金してまでも事業をしたくはありません。資金が枯渇したら、将来どんなに明るい見通しが立っても、見切り千両、すなわち過去の投資の損失は私の浅はかな行為として自分を笑って諦めて、きっぱり経営をやめようと決めていました。

日系大手企業の出張者を襲った事件

 幸い、お泊りいただいたお客様からは「素晴らしい設備で快適だ」との評価をいただき、今後とも利用したいと言っていただいています。少しずつではありますが知名度も上がりつつあります。厳しい競争状態に置かれていますが、最近の2つの出来事により、ホテル経営はうまくいくかもしれないという感触を得ることができました。

 1つ目の出来事は、ピンチでもありました。日系大手企業の出張者12人にお泊りいただいたのですが、2人が原因不明の発熱をされてしまったのです。出張者の皆様の不安感が高まり、この会社の判断で全員が近くのホテルに移ることを決定されました。

 病院と保健所の協力を得て私のホテルには問題がないことを立証できたものの、同社は再び私のホテルに戻るかどうかは出張者の自己判断に委ねるという方針を出されました。その会社の方々が移ったホテルは私が経営するホテルより設備が整っており、戻っていただけないかもしれないと懸念し、暗澹たる気持ちに陥ってしまいました。ところが何と全員にお戻りいただいたのです。その時、日本に出張中の私はこの報告を受けて神に感謝しました。

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