そこで私は彼に言いました。「今でもホテル経営は難しいと思っているし、このホテル経営を採算ベースに乗せることにまったく自信もありません。でも私は日本男子です。日本には『義を見てせざるは勇なきなり』という中国から来た言葉があります。これだけあなたから惚れられ、信頼され、そして1年半もお待ちになられたあなたに『ノー』とは言えなくなりました。本当に自信がありませんが、やってみましょう」と答えました。その時のホッとしたオーナーの顔を忘れません。

ホテルを経営するカラン君との出逢い

 実は、私がその気になったのはもう1つ理由がありました。グルガオンで3つのホテルを経営しているカラン君(K君)との出逢いです。彼は、私が社外取締役をしている会社の会長の甥で、40歳前。本職はパイロットなのですが、彼の父親からの資金援助で副業(いやパイロットが副業と言うべきでしょうか)として奥さん名義でホテルを実質的に経営しているのです。彼の協力を得ることができれば、ホテルを経営できるのではないかと考えたのです。

 「私と一緒にホテル経営をやってみませんか?」とK君に打診しました。K君は即座に言いました。「中島さん。あなたは私の師です。私はあなたについていきます。やりましょう、やりましょう」と。かくしてK君と50%ずつの株式を持つ合弁会社を設立しました。

一流ホテル出身のプロを迎える

 ですが、ホテルを開業した後、厳しい現実をたちまち知りました。ある程度の設備は備えられていますが、充分ではなかったのです。私が想定した以上の投資をしなければなりませんでした。例えば、プールはありますが、浄水装置を改修する必要がありました。ベッドはありますが、ベッドカバーや枕など室内の備品も買わなければなりません。

 日本人向けホテルを志向しているので、NHKの番組が見られるテレビや、日本の新聞や雑誌も用意しなければなりません。室内のシャワーをバスタブに変えることも必要でしょう。カラオケルームは4部屋ありますが、カラオケ設備を購入しなければ。ホテル内にはレストランがありますが、改築しなくてはいけないし、コックも雇わなければなりません。近い将来には、ホテル内に日本式銭湯やジムも作らなければなりません。

 最初は最小限の資金投入で始めて、得られる収入を元手に設備を充実させようと思っていました。しかし、お客様にご満足いただけないホテルを作ったら、近くにホテルが2つあるので、悪い評判が立ってお客様が来なくなります。ホテル経営をすると決めた以上は恥ずかしくないホテルにしたいと思っていました。

「できるだけお金をかけないでやってほしい」

 そのためには必要な資金を投入し、かつホテル経営のプロを雇う必要があります。K君がインドの一流ホテルのタージ・マハールホテルで働いていた有能ホテルマンのラジャット氏を見つけてくれたので、彼を副社長として迎えました。またハイアットホテルに勤務していた経験豊富な男をフロント・マネジャーとして採用しました。この2人にホテル作りをお願いすることにして、私は彼らに言いました。

 「私はホテル経営の経験はなく、まったくの素人です。素人がプロに口を挟むべきではないと思っています。私のホテルのコンセプトは『より充実した設備、よりレベルの高いサービス体制、そしてビジネスホテルであるのでホテル代はより安く』です。このコンセプトをベースに、あなた方が理想と考えるホテルを築き上げてほしい。ただし、共同経営者であるKさんも私も個人出資者であり、投入資金には限度があります。できるだけお金をかけないでやってほしい」と。

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