するとナンバー2の女性高級官僚が応対してくれました。私は必死の思いで、なぜ日本人の定住者が極めて少ないマネサールにレストランを設立したのか、といったことを説明し、早期のライセンス発給を切実に訴えました。
インド政府は外資導入に積極姿勢を示しているのに、日本からの外資導入促進に役立つ日本食レストランにハリヤナ政府がライセンスを発給しない場合は、州政府の理不尽な対応をメディアに発表せざるを得なくなりますと、丁寧な言葉は使いましたが、ある程度の反感を覚悟して主張しました。
普通ならば、「法律は法律。メディアを使い政府に圧力をかけたいのであれば勝手にやればいい。その代わりあなたのレストランは永遠にライセンスを取得できないでしょう」といったことを言われるのでしょうが、彼女は違いました。
20代後半でETCのナンバー2に駆け上った彼女は、超エリートの高級官僚です。私の発言に頷きながらじっと耳を傾けてくれた彼女は、お詫びの言葉を言ってくれました。
「長官も私も中島さんのレストラン設立の主旨は十分理解しています。ハリヤナ州の産業発展にも貢献してくれると思います。ついては州の法律を改定します。そうすれば、ETCの権限内でライセンスを発給できることになりますので、しばらく待ってほしい」と。
私は彼女の言葉を信じることにしました。そして法律は約束通り改定されました。
さらに、そのあとも必要な手続きが滞ったりしましたが、私自身も各役所に陳情し、最終的にはライセンスを取得できました。その過程では、特別な配慮も受けました。
遅れたおかげで体制強化と多店舗化を実現
ライセンス取得が大幅に遅れたことは、私たちのレストランにとってプラスの要素ももたらしました。
ライセンスがないため夜の営業が開始できませんでしたが、その代わりに昼食の新メニューの開発、従業員の教育、食材の仕入れ先の開拓などに時間を使うことができたからです。
おかげでレストランの評判が上がり、私たちの「愛味レストラン」=「美味しい日本料理を安価で提供するレストラン」というブランドが確立できたのです。昼食時間だけで100人以上ものお客様にお越しいただけるようになったのです。

それだけではありません。ライセンス取得が遅れたために、デリーに2号店を開店できたのです。さらにこの店の評判を聞いた「Avalon Hotel」のオーナーから、同ホテル内でのレストラン経営の要請も受けることができました。
もし、ライセンスがもっと早く取得できて、夜の営業をしていたら、忙しくて引き受ける余裕はなかったと思います。さらに8月にはグルガオンにも3号店を開店することが決まったのです。
(次回に続く)
『インドビジネス40年戦記 13億人市場との付き合い方』

(中島敬二著、日経BP社、1600円+税)
私たち日本人には、インド人の思考パターンや行動パターンはなかなか理解しがたいところがある。道を尋ねると口から出まかせを言い、お金を貸すと返してくれないことも珍しくない。「考え方をころころ変える」「約束を守らない」「その場しのぎ主義」と見えることもよくある。
一方、日本でインド人の優秀さが語られることも増えている。特にビジネスの世界においては、インド人の活躍が目立っていることはまぎれもない事実である。世界的な大企業のCEOに就任するインド人が増えていることは、その象徴であろう。
私たち日本人は、インドの人々のことをあまりにも知らない。約束を守らないインド人と、世界企業のCEOになるインド人と、どちらが「本当のインド人」なのであろうか。
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