前回から読む)

 この連載では、40年にわたってインドビジネスにかかわり、現在はインドに在住してビジネスを続けている元商社マンである、私、中島敬二の体験の一端を紹介しています。

 前回は、紆余曲折の末、インドのマネサールに日本食レストランを開業し、徐々にお客さんを増やしてきたことを紹介しました。

 しかし黒字化への道はまだ遠く、さらに売り上げを伸ばさなければなりません。そこで夜の営業も開始することを決意したのです。

お酒を提供するためのライセンス

 インドのマネサールで開業した日本食レストランは最悪の状況は脱したものの、黒字化させるにはさらに売り上げを伸ばさなくてはなりません。そこで私は、夜の営業を開始することを決意しました。夜の営業には、お酒を提供するリッカー・ライセンス(LL)を取得することが欠かせないのですが、その取得は簡単ではありません。複雑な手続きに加えて、賄賂なしでライセンスを取得するのは困難とされていました。

日本食レストランを開業したマネサールから数キロの距離にあるグルガオンの街並み。店で酒を提供するのに必要なライセンスの第一次申請をする役所DETCもこの街にある(写真:AP/アフロ)
日本食レストランを開業したマネサールから数キロの距離にあるグルガオンの街並み。店で酒を提供するのに必要なライセンスの第一次申請をする役所DETCもこの街にある(写真:AP/アフロ)

 じつは私はコンサルタント会社も並行して経営していて、インドで賄賂を払わずに問題解決をするコンサルタントとして、一部の企業からご評価をいただいていました。このため、この評判に恥じないよう、絶対に賄賂を払わないでライセンスを取得しなければなりませんでした。

 インド人の友人の多くからは、「あなたの考え方は理想論であり現実的ではありません。郷に入ったら郷に従ったほうが得策。無謀なチャレンジはやめたほうがいいですよ」と親切な助言を受けましたが、どうしても納得できませんでした。

 悪い常識は変えなければなりません。それが私の生き方だと思っています。そこで正攻法でライセンスを取得しようと覚悟しました。私は長年の友人であるシャルマさんというインド人に協力してもらって、ライセンス取得の手続きを始めました。

 ライセンス取得の許可を最終的に発給する政府機関は250キロ以上離れたチャンディガール(ハリヤナ州都)にあるETC(Excise & Taxation Commissioner)ですが、まずは数キロ程度の距離のグルガオンにある出先機関、DETC(Deputy Excise & Taxation Commissioner)に申請書を提出する必要があります。厄介なのは、いろいろな添付書類が要求されることです。

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