咲間の話を黙って聞いていた山下は、やがて口を開いた。

 「良いと思います。レジの機能を付加するのには少し時間がかかると思いますが、会話だけならいくつかスクリプトがあればすぐにでもできます。それ以外にも、たとえば、お客さんが購入した商品の種類によって、ロボットの上部の扉が開き、ランダムに景品が飛び出すみたいなこともできるかも。ビックリ箱みたいな感じです」

 ディズニーでの体験を具体的な企画案にまで落とせていなかった咲間は、山下からのアイデアに胸を躍らせながら聞き返した。

「ビックリ箱、ですか? ビックリって驚きのことだから、もし本当にできれば、うちの店舗コンセプトとぴったりですよね! そんなことできるんですか?」

 バリバリの一流ロボットエンジニアの山下は、ロボットのように表情を変えることなく咲間の質問に答えた。

 「そう、ビックリ箱。できますよ。というのも、デジタルって、基本的には、予想外の驚きを与えることと相性が良いんですよ。要は確率のアルゴリズムの話なんですけど、それは顧客からは構造は見えないわけで、何が出てくるかわからないってことになるんです」

「アルゴリズム、ですか?」

 咲間は、急に出てきた横文字に若干面食らいながらも、アイデアをかぶせるように言った。

 「じゃあ、ビックリさせるパターンとして、景品を出す以外に、上部の扉から手が出てきて握手するとか、上得意さんにおまけを付けちゃうとかもできますか? その、パターンを増やして、かつ、継続的に入れ替えれば、お客さんに面白がって来店してもらえる気がします!」

 自分のアイデアが次々と実現に向けて転がり出すのが俄然楽しくなった咲間は、それから山下と夢中になって「ビックリ箱ロボット」の企画をまとめ、役員会プレゼンに臨んだ。

役員プレゼンを通過し、実証実験へ

 スタートアップと共同で考えた新規事業の提案は、最後に役員会にかけられた。咲間と山下の二人はデモを見せながら一生懸命プレゼンし、最後に小売事業担当の役員からの承認を勝ち取った。

 「咲間さんとJ-ロボットの山下社長のアイデアは、なかなか面白いと思います。弊社の直営店舗のいくつかで実証実験をやってみても良いと思いました。チームの皆さんが良ければ、私から店舗運営の中島部長に一言伝えておきますよ」

 サプライズ・ラボのリーダーの浅沢は、その言葉を確認して社長の山崎に目くばせをし、山崎が静かにうなずくのを見て咲間に告げた。

 「じゃあ、咲間さん、役員会のOKも出たので、早速、実証実験に進みましょうか。小売事業の中島部長に相談して、早速、進めてください」

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