(写真:PIXTA)

 大企業がスタートアップとの新規事業を評価することは難しい。大企業の完成度の高い品質、オペレーション、供給力などと比較すると、稚拙な提案に思えてしまうからだ。しかし、新規事業の種を育てていくことができなければ、次の柱となる事業は生まれない。

 本連載では、架空の典型的な日本企業である文具・事務用品メーカー「サプライズ社」が、様々な落とし穴でつまずきつつ、担当者が起死回生目指して奮闘していく軌跡を描いていく。4回目の本稿は、新規事業の評価軸について。

 「次は、スペースクリエイション社との新規事業提案です。黒崎さん、内川さん、プレゼンの準備をお願いします」

 サプライズ社のデジタル新規事業企画室、通称「サプライズ・ラボ」のリーダー浅沢は、アクセラレータープログラムで採択したスタートアップとの新規事業提案の役員プレゼンの場を仕切っていた。

 同じくサプライズ・ラボのメンバー内川は、浅沢からの指示を受けて、隣に座っていたスペースクリエイション社長の黒崎に目くばせして、役員会議室の隅から立ち上がった。プレゼンで利用するデモ用スマートフォンを持った黒崎とともに、役員が居並ぶ前の机に移動した。そして、プレゼン用のPCをプロジェクターに繋ぎ、最初のスライドが投影されているのを確認すると、おもむろにマイクを手に取った。

社内論理を乗り越える

 アクセラレータープログラムもいよいよ大詰めを迎えつつあったある日、浅沢以下サプライズ・ラボのメンバーは、採択したスタートアップ4社との新規事業計画の進捗状況の報告のために、いつものように会議室に集まっていた。

 「…ということは、咲間さんとのJロボッツの提案は、実証実験の候補先を絞り込んで具体化する方向でまとまりそうだね。じゃ、次にいこう。内川さん、スペースクリエイションとはどうなってる?」

 浅沢から説明を求められた内川は、スマホで撮影した写真を元にオフィスのリフォームのデザインを検討できるサービスを提案するつもりであることを話した。すると、すかさず浅沢からの突っ込みが入った。

 「あれ、確かそれって、もともと一般消費者向けにする話じゃなかったっけ?」

 「ええ、そうだったんですが、やっぱりビジネスユースのほうが社内を通しやすいんじゃないかって思いまして」

 「その変更、スペースクリエイションの黒崎さんは納得してるの?」

 「えっと、…はい、そうですね。」

 内川がほんの一瞬返答をためらったのを、浅沢は見逃さなかった。