「問題も何も、店舗コンサルティングは代理店の仕事だし、彼らのお陰で店舗に商品が並んでいるんだからさ。そこを飛び越えて我々本部が直々に手を出したってんなら、代理店営業部のメンツも丸つぶれだ。こりゃ、おおごとになるぞ」

 「…」

 ただごとではすまない気配に、青くなって押し黙ってしまった内川と先輩社員のやり取りに割って入ったのが、横で二人のやりとりを聞いていた高木だった。

 「よかれと思った内川の気持ちもわかるけれど、社内的には、まずは代理店営業部に筋を通すべきだったんだろうな。ま、向こうには俺が話をつけておくから気にしなくて良いよ。今後は気を付けてね」

 自分のミスをとがめるどころか、社内ルールを教えてくれ、かつ、後始末をしてくれた高木の男気を内川は懐かしく思い出していた。

顧客の声や体験にこそ、真実が潜む

 新規事業の協業先を検討してきたサプライズ・ラボは、応募してきた50社以上のスタートアップから、独自の拡張現実(AR)技術を持つ「スペースクリエイション」、ロボット技術を持つ「J-Robot」など4社を、アクセラレータープログラムの協業先候補として選定した。内川はほかのもう1人のサプライズ社社員といっしょに、スペースクリエイションとの協業を担当することになった。

 外部から招聘されラボリーダーを担う浅沢は、今回の事業開発にあたり、「デザイン思考ワークショップ」の形式で進めることに決め、長く付き合いのあるという外部のファシリテーターを連れてきた。

 デザイン思考。それは「人間中心」をコンセプトとして、顧客の生活、そこに潜むニーズや課題にフォーカスし、イノベーションを行う手法である。

 「デザイン思考では、顧客起点でプロセスを踏んで考える」

 内川は、ファシリテーターの言葉を何度も反芻しながら、とりかかった。

 ファシリテーターによると、デザイン思考では、顧客課題の仮説設定をしてから観察・共感しつつ課題を定義し、次に、その解決策を具体的な製品やサービスのアイデアに落とし込むというプロセスを踏むことが必要だという。

 「なにはともあれ、まずは、お客さまの声を聞いてみましょう」

 ワークショップは毎週1回、4日間の予定で、初日は顧客課題の仮説の設定と観察だ。スペースクリエイションの黒崎社長と内川を含むサプライズ社社員2人の3人は、ファシリテーターの指示にしたがって話し合いを始めた。