2日後、ラボのメンバーは再び机を囲んでいた。「さて、書類に目を通してもらって、どうだったかな?」高木が口を開いた。
最初に答えたのは内川だった。「どの会社も興味深かったです。とりあえず、自分なりに10社選んでみました。これがそのリストです」
内川が配った紙に目をやりながら、浅沢が言った。「おっ、いいね。で、読んでみた感想は?」
「そうですね…。正直言って、どこの会社も自社の事業概要の説明だけで、当社にどんな貢献ができるとはっきり書いているところはありませんでしたね」
「そりゃそうだよ」
そう言うと、浅沢は一息間をおいてから、少しゆっくりと言った。
イノベーションの原石を探索
「アクセラレーターの主役は、スタートアップ企業なんだよ。我々は、あくまでそのサポート役なんだ。何が貢献できるかを考えるのは我々であって、彼らじゃない。スタートアップを『下請け』扱いしちゃダメだ。これだけは、肝に銘じておいてほしい」
内川は、浅沢の言葉に少し気圧されたように、「分かりました」とか細い声で答えた。
「ところで、咲間さんはどこを選んだの?」
高木が少し微妙な空気を打ち消そうと、咲間に話を振った。
「ええっと、あの、実は頑張って全部読んだんですが……その、どの企業の資料もよく分からない言葉が次から次へとたくさん出てきて、どれが良いのかもよく分かりませんでした…」
咲間が申し訳なさそうにそう言うと、浅沢が笑い出した。
「あっはっは。まあ、そうだよねえ。知らない業界のことだから、咲間さんには分からなくて当然だと思うよ。もちろん理解するための勉強はしてほしいけれど、それでも分からなかったからといって引け目を感じることはない。彼らスタートアップは、世の中に今まで存在しなかった、まったく新しいビジネスを創ろうとしている企業なんだからね。分からないなら、相手のところに行って、分かるまで尋ねればいいんだよ」
その言葉を聞いて咲間は少しホッとした。だが、安心するのは早かった。
「そういうわけで、これから全員で手分けして、チェックを付けたスタートアップに連絡を取って、支援するかどうかを検討してもらうよ」
高木はそう言うと、メンバーが選び出した企業を4人に振り分け始めた。
「咲間さんは、話を聞いてみたい会社、どこかある?…あ、これなんか新しもの好きなあなたに向いているんじゃないかな」
高木が咲間の前に差し出したのは、仮想通貨を扱うインテリジェントマネー社の応募書類だった。咲間の目の前が、再び真っ暗になった。
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