“毒まんじゅう”を食べてしまったメキシコ

 しかし、当初公表されたこれらの条項だけではなかった。もっと衝撃的な内容が付属合意としてあったことが判明したのだ。それが「数量規制」という“毒まんじゅう”だ。

 当初、日本のメディアでは「最悪の事態を回避して安堵」といった、呑気なコメントもあったが、これでは本質が見えない。海外通信社の衝撃的な報道で、やっとその深刻な内容に気づいたようだ。

 

 かつて日本も80年代に締結した日米半導体協定においても、その付属文書で外国製半導体のシェアに関する数値目標を盛り込まされた。そしてその後、大きな禍根を残した苦い経験をしている。

 

 突かれたくない重要な内容は本体の合意には盛り込まないものだ。付属文書を見なければ本質はわからない。

 

 メキシコから米国への乗用車輸出数量が240万台を超えると、25%の関税が課されるというものだ。米国は現在通商拡大法232条に基づいて、自動車輸入への追加関税を検討しているが、この高関税を免れるために、数量規制を飲んだということだ。メキシコはこの“毒まんじゅう”を食べてしまった。

 

 数量規制は関税引き上げよりも自由貿易を歪める度合いが強いので、世界貿易機関(WTO)のルールで禁止されている。これは明らかに自由貿易の根幹を揺るがす大問題なのだ。

 

 かつて80年代の日米貿易摩擦において、鉄鋼の対米自主規制を行い、自動車でも米国は同様の自主規制を日本に対して要求していた。そしてこのような「管理貿易」には怖さがあった。日米半導体協定のように、一旦安易に譲歩すると、更に米国はカサにきて要求を強めてくる、という苦い経験をした。

   

 そして今、塗炭の苦しみを味わっているのが韓国だ。

 

 本年3月、米韓自由貿易協定(FTA)の見直し交渉が合意した。この中で、鉄鋼に関して、通商拡大法232条に基づく追加関税を免除されるのと引き換えに、米国への鉄鋼輸出の数量制限が盛り込まれた。

 

 当初、うまく交渉をして追加関税を免れたとされていたが、そこに大きな落とし穴があった。数量規制の運用が米国にいいようにやられて、韓国はがんじがらめにされて、悲惨な状況に追い込まれているのだ。

 

 「これでは追加関税をかけられていた方がマシだった」との声が聞こえるほどだ。

 「ミスター数量規制」によって「北米管理貿易協定(NACTA)」になった

 ライトハイザー米国通商代表は、80年代に日本に対して鉄鋼輸出自主規制を飲ませた成功体験を持つ。さらにトランプ政権下では拍車がかかり、通商拡大法232条による高関税を脅しに、数量規制に追い込む。鉄鋼問題で韓国に対して味を占めて、今回、メキシコに対して自動車の数量規制を飲ませたのだ。

 いわば彼は「ミスター数量規制」だ。

 

 さすがにメキシコのグアハルド経済大臣は当初受け入れなかったが、最後はレイムダック化した現大統領が安易に受け入れてしまったのだ。

 

 メキシコは「25%の追加関税を免れるための保険を得た」とその成果を説明するしかなかったが、これこそ米国の思うつぼだ。

 

 2017年のメキシコから米国への乗用車輸出が170万台なので、240 万台の数量規制ならば今後4割程度の増やす余地があると安易に考えたのだろう。

 

 しかしメキシコの対米輸出はここ5年を見ても、年平均1割は伸びている。今後も自動車メーカーの生産拡大計画があり、新協定が2020年から発効するとして、恐らく数年で240万台に達してしまう。

 

 しかも注意を要するのは総枠の数量だけでない。韓国は鉄鋼の数量規制を54品目ごとに規定されて「がんじがらめ」にされている。今後、明らかにされるであろう数量規制の中身も子細に見る必要がある。

 

 例えば、前述したように、自動車メーカーが「引き上げられた域内部品調達率や賃金条項を無理して満たすよりも、2.5%の関税を支払う方がコスト的によい」として選択したとしよう。ところが、そういう対応を抑制するために別途の仕組みも仕込まれているようだ。

 

 2.5%の関税支払いをして米国に輸出できる台数を百数十万台に制限して、これを超えると懲罰的な高関税がかかる、という仕組みだ。

 

 こうした管理貿易の仕組みを駆使して、企業の経営判断の自由度を「がんじがらめ」に縛り、米国での部品調達に巧妙に追い込んでいるのである。

 

 いずれにしても自動車産業はメキシコへの投資を抜本的に見直しすることを迫られそうだ。

 

 「北米自由貿易協定」は「北米管理貿易協定」になってしまった。NAFTA(North American Free Trade Agreement)ではなく、NACTA(Controlled Trade )だ。