大豆とLNGの輸入増は本当か?
私は、「EUが米国から大豆と液化天然ガス(LNG)の輸入を増やす」という譲歩のカードを切ったという報道を聞いて、最初、耳を疑った。EUは中国と違って市場経済だ。中国のような、国家が国有企業に買い付けさせられるような国家資本主義の国なら買い付けの約束もできようが、どうやってコミットするのか。
しかし、よくよく合意内容を読めば、合点がいった。実はEUが買い付けを増やすとコミットしたものではなかったのだ。ユンカー欧州委員会委員長にはそんな権限はない。
大豆は「貿易障壁を減らして貿易を増やすために米欧双方は取り組む」というものだ。それをトランプ大統領は選挙民に対して「EUに買わせた」と、誇らしげにぶち上げているだけだ。LNGもEUが調達先を多様化するために要望し、「米国が欧州の購入を容易にする」というものだ。
全然ニュアンスが違う。中国の「いくら購入する」とコミットする、いわゆる管理貿易と同列に受け止めてはいけない。もう少し正確に報道してもらいたいものだ。
同じく市場経済の日本も、政府がコミットできるのは防衛装備品の調達ぐらいだ。
メディアが見過ごす、今後の国際秩序への布石
重要であるにもかかわらず、日本のメディアが注目していないことがある。WTO改革と、知的財産権の侵害など不公正な貿易慣行などの「中国問題」にも、米欧が連携して対処することを表明したことだ。
いずれもトランプ大統領自身の関心事項ではないのは皮肉なことだが、それにもかかわらずEUが盛り込ませたことは重要だ。
WTO脱退にもしばしば言及するトランプ氏を念頭に置いて、日本と欧州が米国をWTO秩序につなぎ止めなければならない。そのためにはWTOの改革は急務だ。
さらに中国を念頭に置いて、知的財産権の侵害、補助金、国有企業による歪み、過剰生産問題を米欧が日本など他の有志国と一緒になって共同歩調で取り組むことを明記したことも重要だ。これは5月末の日米欧三極貿易大臣会合で合意した内容である。しかしトランプ大統領がその意味を理解しているようには思えない。そこで今回トランプ大統領に認識させたことに意味がある。
今後、日本にとっても重要な意味を持ってくる。日本はEUと連携して米国に働きかけており、これらはFFRでも当然重要なテーマになる。日本のメディアももっとこの点に関心を持つべきだろう。
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