これに対して中国は国家戦略の根幹に関わるものだけに「中国製造2025」を見直すわけにはいかない。さらにそれを下支えする技術入手の手法も根深く、表面的な制度の改正で済むような問題ではない。そういう意味で、着地点の見出せない問題だけに長期化は避けられないだろう。

 対抗策として、中国で活動をする米国企業に対して不透明な法運用で差別的扱いをしたり、中国市場での米国製品の不買運動を仕掛けたりする、かつて日本や韓国に対してあった中国式手法を繰り出す恐れもある。そうなると泥沼の様相を呈することになりかねない。

日本が注意すべきことがある

 ここで日本が注意すべきことがある。これらの輸出管理の強化については日本など同盟国との協力にも言及されていることを見逃してはならない。

 中国に対する輸出管理の運用が従来比較的緩やかではないか、とされていた欧州も含めて、日米欧の共同歩調が重要になってくる。

 さらに日本企業が注意すべきは、米国の輸出管理には再輸出規制があることだ。米国からの部材、技術を組み込んで日本から中国に輸出するケースも、米国の規制対象だということを忘れてはならない。

 大学についても、日本の大学の研究現場でどこまでこの問題を深刻に受け止めているか、心もとないところがあるのも事実だ。通り一遍の説明会を開催してアリバイ作りだけで満足していないか検証してみる必要がある。

 企業、大学も含めて、日本自身も他人事では済まされないのだ。

 さらに今後米中摩擦が激化すると、警戒すべきは個別事件だ。

 かつて80年代の日米貿易摩擦の時代には、82年に日立IBM産業スパイ事件、87年に東芝機械ココム事件があって、米国の圧力が激しさを増した記憶がよみがえってくる。米国が本気になった時の怖さだ。

 前出の中国のZTE社による対イラン、北朝鮮への違法輸出事件もそれを思い出させるものがある。

 今後、違法輸出に対する捜査当局の摘発が強化されることも想定されるが、日本企業が巻き込まれることはあってはならない。

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