米中二大国はとうとう関税の報復合戦を始めた
米中二大国はとうとう関税の報復合戦を始めた

 「7月6日は米中貿易戦争の開戦記念日になるのか」。元外交官の米国人がため息交じりに語っていた。

 7月6日、とうとう米中二大国は関税の報復合戦を始めた。その世界経済に与える影響や日本経済に与える影響についてはさまざま論じられている。そうした経済や企業活動への影響も当然重要ではあるが、日本にとっての根本問題を忘れてはならない。

 それは巨大国内市場を持った大国が一方的制裁を振りかざす「パワーゲーム」の世界に突入したということだ。そうした事態を回避するために、これまで長年積み上げてきたのが、世界貿易機関(WTO)をはじめとする「ルールに基づく国際的な経済秩序」であった。日本の存立基盤でもある。それが崩壊の危機に瀕しているというのが本質的問題なのだ。

 そのうえで、この米中貿易戦争は今後どう展開していくのだろうか。

 大事なポイントは「米国」という主語で一括りにすると、本質が見えなくなるということだ。トランプ氏とトランプ氏以外を分けて考えるべきなのだ。トランプ氏以外とは議会、政権内の強硬派、ワシントンの政策コミュニティーだ。

当面のディール成立の可能性はあるが……

 トランプ氏の関心は2つある。中間選挙に向けての得点稼ぎと中国との当面の交渉の駆け引きだ。

 今回の関税引き上げで、対中強硬姿勢がポーズだけでなく、実行することを見せる。それは国内支持層へのアピールと中国に向けての交渉術としての意味がある。今回の340億ドル規模の関税引き上げでまず国内と中国の反応を見る。あえて500億ドル規模の関税引き上げを第一段階の340億ドルと第2段階の160億ドルの2段構えにしている理由はそこにある。

 2000億ドル規模の追加関税については、数字の大きさで世間の耳目を集めているだけだ。

 国内については報復関税の被害にあう大豆農家などの農業票の反発の大きさを見定める。

 中間選挙を考えれば、トランプ氏の当面のターゲットは8月だろう。中国がそれまでにどういう協力のカードを切ってきて、戦利品としてアピールできるかがポイントだ。

 ただ中国もカードを切るのを慎重になっている。その背景は5月の出来事だ。劉鶴副首相が訪米して、ムニューシン財務長官、ロス商務長官との間で農産物、エネルギーの輸入と引き換えに、関税引き上げを保留することで一旦合意したにもかかわらず、翌日にはライトハイザー通商代表にひっくり返された。政権内の路線対立による混乱ではあるが、いずれもトランプ氏がそれぞれに了承しているだけに、トランプ氏自身のブレの大きさに中国もあ然としたようだ。そこで当面のカードを切らず、様子見の方針だ。

 中国も国内の強硬世論への目配せが必要なので、今回の報復関税合戦に突入した。次はターゲットの8月に向けて大物・王岐山氏が動くかも注目点だ。

 こう見てくると、9月の米国議会再開までに米中間で当面のディールが成立する可能性はあるだろう。しかしそれは米中摩擦の小休止にしか過ぎない。

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