年間で70を超える自治体が視察

 今、国は全ての保険者に対して、「データヘルス計画」を進めている。レセプトデータなどを基に、健康の維持・増進を促す施策を保険者が考え、結果として医療費の削減につなげていくことを狙っている。呉市は、この計画の中で先進事例として紹介されたことから、年間70を超える自治体からの視察を受けている。

 呉市が取り組みを始めたのは、財政面での切実な悩みに直面していたからだ。約23万人の人口のうち、65歳以上の高齢者の割合は約34%と、同規模の都市で最も高い。高齢化に加えて、市内には400人以上が入院できる大病院が3つもあるため、住民一人当たりの医療費が高い。2014年度は43万7000円と、全国平均の1.32倍にもなる。

 特に国民健康保険は、企業を退職して医療費がかかるようになってから加入する人が多い。また、被保険者の多くは65歳以上の高齢者のため、自己負担は1~2割の人が多い。結果として、市の負担が重くなる。

 日本の医療のメリットは、フリーアクセスと皆保険制度だ。保険証があれば、基本的にどこの医療機関でも、一定の料金で医療サービスを受けることができる。ただし、患者自身が「必要だ」と思えば、医療機関を何度も受診することができてしまう。それが医療費を増大させているという指摘もある。

 その逆も問題だ。自己判断で治療を止めてしまい重症化してしまうと、医療費がかえってかかることになる。例えば糖尿病は悪化すると人工透析が必要になり、年間の医療費は1人当たり600万円にもなる。こうしたケースでも、保険で賄われているのが現状だ。

 医療費削減に向けた取り組みを進めてきた呉市の小村和年市長は「保険は皆の負担の上に成り立っている。サービスを受けることを委縮する必要はないが、医療を受ける権利ばかり主張していては、制度自体を崩壊させてしまいかねない」と話す。

医療費の適正化に力を入れてきた広島県呉市の小村和年・市長
医療費の適正化に力を入れてきた広島県呉市の小村和年・市長

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