これからの経営イノベーションにはデジタル、データ、デザインの3つの「D」が欠かせない。2016年7月に新イベント「D3 WEEK 2016」を開催する専門誌3誌が、最新の企業事例やキーパーソンのインタビュー記事などで、その可能性を探ります。

 連載第11回は、7月29日の「Digital Marketing DAY」に登壇する資生堂が進めているEC(電子商取引)とブランディングとの統合に迫ります。資生堂は、自社データから第三者の持つデータまで、デジタルマーケティングに関わるすべてのデータを統合的に蓄積する体制を整備しました。「Digital Marketing DAY」の詳細はこちら

 資生堂がマーケティングデータのワンソース化を進めている。デジタルマーケティングのデータを一元的に格納するため、トレジャーデータ(東京都千代田区)のクラウド型プライベートDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)を4月に導入した。この新たなDMPに、資生堂社内のデータにとどまらず、第三者の持つオーディエンスデータ(サイト閲覧者の趣味や好みなど、個人を特定しない消費者データ)など、デジタルマーケティングに関わるすべてのデータを統合的に蓄積する。

 資生堂がデータの活用で目指すのは、顧客一人ひとりに最適なコミュニケーションをするワン・トゥ・ワンマーケティングだ。その実現のために、昨年からマーケティングオートメーション(MA)ツールやDMPなどを相次いで導入してきた。

LINEでシナリオ型マーケティング

 例えば、MAツールの活用では、プラットフォームをまたいだシナリオ型の配信に取り組んだ。メールの開封の有無といった分岐条件ごとに、次に実施する施策を設定しておくことで、自動的に実行される。通常、自社で発行するメールを中心に実施するケースが多いが、資生堂は無料通話・メールアプリ「LINE」上に開設している、自社サイト「ワタシプラス」のLINE公式アカウントも含めて、シナリオ型の配信を実現している。

 ワタシプラスのLINE公式アカウントには、2000万人超の「友だち」が登録しており、情報を届けられる規模は非常に大きい。ただ、従来は登録者の情報に合わせたメールの出し分けはできず、全員に同じ内容を一斉配信していた。「開封率やクリック率はメールに比べると非常に高い。より有効なコミュニケーションをできないか検討していた」と資生堂ジャパンのダイレクトマーケティング部Web推進室長の徳丸健太郎氏は言う。LINEでもワン・トゥ・ワンマーケティングを実現する。導入したのが「LINEビジネスコネクト」だ。

LINEの企業向け販促支援サービス「LINEビジネスコネクト」を使いメールを配信し分ける
LINEの企業向け販促支援サービス「LINEビジネスコネクト」を使いメールを配信し分ける
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 LINEビジネスコネクトは、企業の持つシステムとLINE公式アカウントを接続するもの。資生堂はこのLINEビジネスコネクトを活用して、顧客データベースとLINE公式アカウントを接続。これによりLINE公式アカウントに登録した友だちに対し、資生堂の持つ顧客データを用いてターゲットを設定して、メールを出し分けられるようにした。

 とはいえ、単にシステムをつないだだけでは、顧客ごとのメール配信はできない。まずLINEの公式アカウントとワタシプラスのIDを顧客自身に接続(ひも付け)してもらう必要がある。そこで、昨年のLINEビジネスコネクト導入後は、まずIDを接続する会員の増加策に注力。IDを接続した会員に抽選でグッズなどが当たるプレゼントキャンペーンなどを実施して接続を促した。現在は約15万人がLINEのアカウントとワタシプラスのIDを接続しているという。

 今年に入ってID接続が一定数に達した段階で、ID接続している会員には、その時々に応じて、メールを配信するプラットフォームを変えるといった施策に取り組み始めた。例えば、期限付きクーポンの利用期限を知らせるメールもその1つ。期限当日のアラートを、ID接続している会員にはLINEで配信し、それ以外の会員にはメールで知らせている。

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