あかの他人を自宅に泊めたり、知らない人の家に泊まったりする。日本でも6月に住宅宿泊事業法が成立し、民泊が今後さらに普及するだろう。世界に目を向ければ民泊の代表的なサービス「Airbnb」(エアビーアンドビー)は、創業9年であっというまに推定企業評価額が3兆円を超える存在にのし上がった。

 なぜエアビーアンドビーはこれほど成功しているのだろうか? エアビーアンドビーのこれまでを追った『Airbnb Story』の一部を抜粋し、"ありえない"アイデアを世界のヒットサービスに育てた経緯を紹介しよう。

椅子の上に並び立つ若者たちは、左からネイサン・ブレチャージク、ジョー・ゲビア、ブライアン・チェスキー。エアビーアンドビーの創業者たちだ。彼らはいかに新たなサービスを生み、育てたのか。写真は2011年のもの(写真:The New York Times/アフロ)
椅子の上に並び立つ若者たちは、左からネイサン・ブレチャージク、ジョー・ゲビア、ブライアン・チェスキー。エアビーアンドビーの創業者たちだ。彼らはいかに新たなサービスを生み、育てたのか。写真は2011年のもの(写真:The New York Times/アフロ)

 エアビーアンドビーがうぶ声を上げたのは2007年10月。デザイン博でサンフランシスコのホテルが満杯になるタイミングを狙って、エアビーアンドビー創業者のブライアン・チェスキーとジョー・ゲビアは、自宅の余ったスペースにエアマットを敷いて貸し出すことにした。その後、アメリカのオースティンで毎年開催される大規模イベント、「サウスバイサウスウエスト」でサービスを初公開したが、ほとんどユーザーがつかなかった。

 投資家に出資してもらおうとプレゼンしても、ミーティングの途中で無言で席を立たれるようなこともある。とにかくこの創業者たちは投資家に断られ続けた。しかし、彼らを認めた人物がいた。シリコンバレーの重鎮であり、起業家養成スクール「Yコンビネーター」の創業者、ポール・グレアムだ。

(以下『Airbnb Story』より抜粋)

 Yコンビネーターのポール・グレアムは参加者全員に、ひとつのことだけに集中しろと伝えた。「デモデー」(デモの日)までに利益を出すこと。新入生が投資家にビジネスプランをプレゼンする年に2回のイベントが「デモデー」だ。次は3月と決まっていた。グレアムの言う利益とは、自力で食べていけるくらいのお金を稼ぐという意味だ。「ラーメンが食べられるくらいの利益」でいい。それまであと3カ月。

 エアビーアンドビーの創業者、ブライアン・チェスキーとジョー・ゲビアとネイサン・ブレチャージクの3人は誓い合った。この3カ月にすべてを出し切ると。8時に起きて夜中まで働く。休日はない。人生で初めて、ひとつのことに100パーセント集中する。ほかの内職に時間を使わない。もし最終日に投資してもらえなければ、それぞれ別の道に進むと決めた。

 グレアムの最初の講義のあとで、3人の創業者は自分たちのホッケースティック型の売上グラフをつくり、その紙を洗面所の鏡に張り付けた。朝起きてそれを一番に見て、一日の最後にまたそれを見るためだ。そのグラフを毎週更新することにした。

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